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滞仏日記「ついに奇跡が起こる。しかし、この用意周到な奇跡の起こし方」 Posted on 2021/05/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、いやー、「マジ、実現するな、これは」というところまでたどり着くことが出来た。
なんたって、4月の終わりまでオーチャードホールでのライブ中止がぎりぎり決まらなかったのだから。
ぼくはまず、東京の関係者の説得からはじめた。
「5月30日の東京でのライブは難しい」とすでに3月くらいには彼らに伝達をしていた。
というのも、感染者数と実行再生数、陽性率などから、計算をすると、春にかけて、日本は今までにない感染拡大が起きている可能性が大きかったからだ。
主催者の中原氏を説得するのが大変だった。
誰もこの感染症がどういう動きをするか見極めきれないからである。
でも、だいたい、二週間後、一月後の世界が、見えてくる。
日本政府はオリンピックを控えており、動きが鈍く、とくに強い措置もとれない。
なので、これは変異株などの動きが今後加速すると思って、自分は飛行機の座席をまず真っ先にキャンセルした。
逃げ道を作ると何もできないので、退路を断って、ぼくはセーヌ川クルーズライブを仕掛けることになる。
もちろん、東京サイドはまだオーチャードホールでのライブをどうするかで悩んでいる段階だったけれど、中止になってからじゃ間に合わないのだ。
やはり、どうしても5月30日にライブをやりたい。ファンの皆さんのことを考えると、3回も還暦ライブが中止になっているのに、ここで中止ってありえないわけで・・・。
そこで、実は今だから明かすけど、船はうちのパリスタッフが動いて、中止の判断が東京から出るよりずっとずっと前に、仮契約まで終わらせていたのである。

滞仏日記「ついに奇跡が起こる。しかし、この用意周到な奇跡の起こし方」



もちろん、お金を払って本契約をしない限り、船は最終的に借りれないのだけど、コロナ禍で今時、船を貸切る人間などいない。なので、融通が利いた。
そこでぼくらは船会社数社と交渉を続けてきた。
東京サイドが決断する前に、実は「船まで絞り込んで、金額交渉も終えていた」のである。待っていたら、本当にこのライブは実現できなかっただろう。今だからあかせる事実・・・。
フランス政府のコロナ政策もきちんと読んで、5月中旬にロックダウンが緩まることも予測していた。
実はこの予測はイチかバチかだった。
フランス政府がロックダウンを緩めなければ、そもそも船の上でライブが出来ない。
そこで、英国やドイツ、イタリアなどの感染状況、各国政府の動きと比較し、フランス政府の発表をすべてチェックして、いつごろにフランスで制限が緩まるかを算出していたのである。
結論から言うと、ほぼ、読み通りになった。
5月20日前後というイメージが出来たので、25日にスタジオを予約した。
スタジオ側も、政府の判断次第でキャンセルさせてもらうかもしれない、という条件付きでの予約だった。
このゲネプロのスケジュールを出すのは最後まで悩み続けることになる。
なぜかというとスタジオは密室なので、政府からの許可が一番おりにくい場所だからだ。
でも、25日は的中した。ぼくらはスタジオを半日借りて、無事にゲネプロを終わらせるっことが出来たのである。

滞仏日記「ついに奇跡が起こる。しかし、この用意周到な奇跡の起こし方」



ぼくは三度のロックダウンを乗り切る中でコロナウイルスがどういう動きをするのか、そして政府がどのような制限を出してくるか、をだいたいだけど見極めることが出来るようになっていた。
そのすべてが運よく的中し、今日のライブへと繋がったのである。
配信の技術面でもこのわずか半年の間に驚異的な進歩があった。
前回のヴェルサイユ宮殿からのオンラインツアーには百万円もする設備が必要だったが、今回は全く違う方法でぼくらは映像と音を日本に届ける。
これも画期的な方法だけど、ヴェルサイユ宮殿の時より画像がよくなっているはずだ。
ただ、シテ島、サンルイ島の川幅が極端に狭い場所を船が通過する時だけ、気持ち画像が不安定になる可能性がある。(すぐに戻ります)
とくに石の橋の下を潜り抜ける時が不安定になるのだ。
なので、ここでは演奏はせず、ぼくがその辺でガイドをするという演出上の技をつかって、潜り抜けることにした。(その点だけはご理解いただけると幸いである)

滞仏日記「ついに奇跡が起こる。しかし、この用意周到な奇跡の起こし方」



現在、まだパリには観光客が戻ってきていない。
なので、今日のセーヌ川クルーズはほぼ、セーヌ川を独り占めの状態でクルーズ&ライブをやることになる。
これは、逆に言うと、他の誰もがまねできない、このタイミングだからこそのスペシャル・クルーズツアー&ライブ、ということになるだろう。
すれ違う船がほぼいない、貸し切り状態のセーヌ川からの配信はおよそ、前代未聞ということになる。
何が起こるかは誰にもわからないが、ぼくが一度、小型船でテスト遊覧をした時も、セーヌ独り占めだったが、大型船での周遊をこのタイミングにできることは正直「奇跡」というしかない。
(久しぶりに船を出すので、船長が操縦方法を忘れている可能性もある?)
きっと夏になると観光客が少しずつ戻ってきて、バトームッシュなどが動き出すことになる。でも、今日はまだほとんど独占状態なのである。
その人のいない歴史的な空間でぼくらは大音響のコンサートをやりながら、セーヌ川を周遊する。
「絶対不可能ですよ」とある人に言われた。ぼくはその時、耳を塞いだ。違う。不可能だと思うのはあなたにとってはただの他人事だからだ、と思った。
ぼくは諦めるのが得意じゃない。外野は黙っていろと、と心の中で思っていた。
そして、今日、ぼくらは奇跡を起こす。
これこそがコロナ時代のエンターテインメントになるかもしれない。いや、調子に乗らず、最後の最後まで全力で楽しみたいと思う。楽しもう!!!!
皆さん、ぜひ、乗船してほしい。これはまたとない冒険であり、二度とないクルーズツアーなのだから!!!

滞仏日記「ついに奇跡が起こる。しかし、この用意周到な奇跡の起こし方」

配信日:5月30日(日)日本時間・19:00~
配信期間:5月30日(日)19:00~6月6日(日)23:59まで
配信プラットホーム:PIA LIVE STREAM(https://t.pia.jp/streaming)※チャット有り
チケット料金:3500円(税込)
チケット購入、チケットぴあ ➡️https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2111809でご確認お願いします。盛り上がろう!!!!

【海外在住のお客様購入専用受付】
チケット購入、詳しくはこちら➡️https://ticket.pia.jp/piasp/inbound/hitonaritsuji-engpls.jsp

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