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滞仏日記「結局、ワクチンについて、ぼくが考えた一つの結論」 Posted on 2021/05/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ワクチンを打った後、ちょっと奇妙な現象、というか変化が起きた。これは翌日の日記に詳しく書いてあるので、その部分をちょっと読んでもらいたい。
「そうだ、ワクチンのせいかどうかはわからないけれど、昨日は一睡もできなかったし、ちょっと興奮状態が続いたのはたしかだ。
つまり、変な意味にとらないでほしいけど、でも、変なところも元気な感じな気がした。
落ち着かないのである。
気のせいか、と思ったけど、お酒もほとんど飲んでないし、それで医者の知り合いに聞いてみたところ、ワクチンが身体に順応するまでには、やはり、人によって多少の違和感が生じる可能性はあるよ、とのことだった」
今朝、こちらのテレビでえらい科学者の人が、ファイザーのワクチンを接種すると、興奮状態になる人がいる、と発言していた。あ、と思った。そうか、あれはワクチンのせいなのだ!
さらに接種から二日後、ぼくはセーヌ川のライブの下見に出かけるのだけど、ぼくは船の上でずっと興奮状態に陥り、コーディネートさんに、
「辻さん、どうしたんですか? ちょっと落ち着いてください。ライブやりたいという気持ちはわかりますが、船の上だから、あまり立ち上がらないで、座っていてください」
と注意されたのだった。
その後も眠れない日が続いて、と同時に、軽い片頭痛も続いたのだけど、接種からちょうど一週間目に、通常に戻った。
着床したのかなぁ、と言ったら、息子が、仏語間違えてるけど、順応したでしょ、と笑われてしまった。



どうやら、ファイザーのワクチンを接種した人の中にはぼくのように興奮状態になる人が多いようだ。アストラゼネカやモデルナなど、ワクチンによって、やはりなにがしかの変化があるということだろう。で、今日のニュースで、英国の研究者によって、ファイザーのワクチンは二回接種をすれば変異株には効くけど、一回だと十分ではない、という発表があった。つまり、二回目の接種が終わるまで、ぼくはまだ安心できない、ということである。(逆を言えば二回接種できれば、とりあえず変異株にも有効ということか・・・)
というのも、現在、フランスでは変異株がすでに全体の80%を超えているのだから。

滞仏日記「結局、ワクチンについて、ぼくが考えた一つの結論」



しかし、ここでぼくはあることに気が付いた。ぼくは6月上旬までに二回接種を終えるけど、このワクチンが半年ほど効果があったとしても、その間に、狂暴な変異株が出てくれば、それに対応する新しいワクチンをぼくは打たないとならないだろう。
最初の二回の接種を終えていれば、途中からワクチンを変えることも可能らしい。
とにかく、人類は今後、ずっとワクチンを打ち続けないとならない、ということは間違いなさそうだ。
インフルエンザはここ十年打ってない。でも、命にかかわる新型コロナに関しては打ち続けないとならないだろうなぁ、と思っている。
つまり、半年に一度、ぼくはハイになるのか?



地球カレッジ

息子にチャーハン定食を作って、寝室でぼんやりとテレビを見ていたら、フランスの製薬会社の人が出てきて、新しいワクチンを開発しているのだ、と喋りだした。
これまでのワクチンは簡単に言うとウイルスのスパイクをブロックさせて無力化させるワクチンだそうだが、この会社が開発しているのは、ウイルスの中に入って全てのコロナウイルスに共通する部分を攻撃して中から無力化させるワクチンらしい。
へー、それが出来たら、すごいじゃん、と思った。
もしも、これが開発されれば、どの変異株であろうと有効なはずだ、とそこの会社の偉い人が力説していたけど、ぼくのフランス語が十分じゃないかもしれないので、その先のことはパリ最新情報に譲りたい。笑。



ともかく、まだまだワクチンも変化していく。
来年の今頃、ぼくがどのくらいのタームでワクチンを接種し続けているのか、それがどのくらい変異株に有効なものか、そもそも、コロナウイルスはどんな変異をとげ、人類を震え上がらせていくのか、見当もつかないし、わからない。
インドでは、今日一日で40万人の感染者が出た。
一昨日から10万人も増えており、想像もできない事態が起きている。
ワクチンだけで、この狂暴な変異株を防げるのか、正直、わからない。しかし、一つ言えることは、ロックダウンだけでは人類はもうコロナを封じ込めることが無理だろう、ということである。
ワクチンとロックダウンを組み合わせた二重の防御でこれに打ち勝っていくしかない。
まだまだ、先は長い。ぼくらも意識を変異させる必要がある。

滞仏日記「結局、ワクチンについて、ぼくが考えた一つの結論」



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