JINSEI STORIES

退屈日記「ついに、ぼくは初の電子書籍を出版した。作家生活30周年を記念して」 Posted on 2021/04/29 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくが電子書籍を今まで認めてこなかったのは、ひとつには、お世話になってきた書店のことを思い、また、書籍は紙で読みたいという思いが強かったからだ。
※今のところ絶版になった作品のみを電子書籍化する予定で、書店で買える作品の電子書籍化は想定していません。
しかし、出版不況でこの数年、ぼくの作品が次々に絶版化され、重要な作品が書店で買えないという事態になり、我が子のような作品をこのままこの世界から消し去るわけにはいかないと、ぼくは電子書籍というこれまで一度も許可してこなかった未知の世界に踏み出すことになった。
と同時に、本サイトの読者は海外在住者も多く、日本の本を読みたくても読めない方々に届けるのに、電子書籍は有効だ、と気が付いたからだ。

しかし、絶版になった本を出したい出版社はない。
そこでぼくはアマゾンのキンドルで自費出版というか、個人出版が可能なことを知り、その方式で本を出すことに決めた。電子書籍についての勉強をこの間、続けてきた。
しかし、これが実に面倒くさい、大変の連続だったのだ。
まず、原稿をすべて打ちなおさないとならない。そして、それを自分で、もしくは校正のできる者の力を借り、チェックをしないとならない。
表紙なども自分でデザインしないとならない。とにかく全部自分でやらないとならないのである。
時間も、お金もある意味、かかった。

退屈日記「ついに、ぼくは初の電子書籍を出版した。作家生活30周年を記念して」

※携帯で購読するとこういう感じで読むことが出来る。iPadやkindleでももちろん、読める。

ぼくは本webサイト、デザインストーリーズを主催しているので、編集の経験のあるスタッフに相談をし、みんなの力を借りて、作業に入ったのだけど、はじめてのことだったので文字起こしから校正作業まで、実に、数か月もの歳月を要した。
記念すべき第一弾の作品には、自身の作品の中で一番思い入れの強い「オキーフの恋人、オズワルドの追憶」を選んだのだけど、この作品は文庫本でも1000ページを超える超大作なのだ。単行本の時は上下巻で出版された。
思い入れの相当に強い、重要な作品だったが、電子書籍にすることでこの作品はキンドルの中で半永久的に生き残ることになるのだった。

今回、電子書籍化にあたり、ぼくは大幅な加筆訂正を加えた。
なので、オリジナルよりも読みやすく、速度のある仕上がりになっているし、20年の歳月がここに新しい息吹を吹き込んでいる。
舞台は下北沢で、ここで連続して発生する女子高生連続殺人事件に巻き込まれるユーモラスな探偵の物語を縦軸に、またその探偵小説に関係する当事者たちの現実の物語を横軸にした入れ子状の構造を持ちながら、「テロ」とか「宗教」とか「洗脳」とか様々なキーワードがふんだんに盛り込まれ、まさに21世紀を占う黙示録に仕上がっている。
40歳の野心的なぼくが書いた作品は60歳になったぼくが牽引した、実に画期的なコラボレーションになった。このボリュームだけど、あっという間に読むことが出来る。そして、おっと、・・・あとは、お楽しみに。

退屈日記「ついに、ぼくは初の電子書籍を出版した。作家生活30周年を記念して」

※小説の始まりはこんな感じである。

今回は上巻のみの配信だが、下巻もほぼ脱稿している。デザインストーリーズブックスというレーベルを作ったので、今後、ぼくは自作をここに集めて、永遠に管理していきたいと思っている。
コロナにならなければ、これもスタートしなかったプロジェクトかもしれない。
どんな時代になっても、文学が終わることはない、とぼくは信じている。
作家は自分で自分を守らないとならないある意味、厳しい時代になったのだと思う。
しかし、書くことに終わりはない。書店ではもう買うことのできない、ぼくが、自身の最高傑作と豪語する作品がここに蘇った。小説の醍醐味を、小説好きな皆さんに楽しんでいただけることをひたすら祈って、この作品を世に送りだす。  

ご希望の方は、下のタイトルをクリックしてください⬇️
「オキーフの恋人 オズワルドの追憶 上巻」                 

退屈日記「ついに、ぼくは初の電子書籍を出版した。作家生活30周年を記念して」

※そして、装丁をご覧いただきたい。素敵でしょ?
下巻は5月中旬刊行予定。お楽しみに。