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退屈日記「最近の息子事情。夜中に恋人と大声で話すのはいいのだけど」 Posted on 2021/04/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、子供部屋は、夜になると、いつも煌々と照明が灯される。
なぜか、息子くん、いつもドアを閉めないものだから、夜はずっと息子の部屋から光りが漏れ続けている状態で、辻家を東京に例えるなら息子の部屋は歌舞伎町みたいなものだ。
ところ、息子に恋人君が出来てから、この状況に変化が訪れた。
いつもならぼくが寝る時も明るい子供部屋なのだけど、最近、23時くらいになると真っ暗になる。
あれ、寝たのかな、と思っていると、ぼそぼそと声が聞こえてくる。
なぜか、いつもドアは閉めない。そしてなぜか、彼は恋人とスピーカーフォンで話す。
それもかなり大きな音で彼女の声をスピーカーから出して、話すのだ。なんで?



パソコンのスピーカーで話しをしていることもあるけれど、部屋の電気は消えており、想像するにベッドなどで寝ころびながら、部屋を暗くして語り合っているのだ、と思う。
それは別にご自由にという感じなんだけど、じゃあ、ドアを閉めてくれよ、と父は思うのだが、それか、せめて、スピーカフォンにせず、小声で、囁きあえばいいじゃないか、と思うのだけど、・・・。
で、話す内容に関してはぜんぜんわからないし、父ちゃんには関係ないので、聞きたいとも思わないのだけど、隣の部屋なので、息子の低い声と彼女の高い声が壁を時々、振動させるのである。まぁ、ほほえましくもあり、鬱陶しくあり、・・・。
もちろん、ぼくはドアを閉めて自分の寝室にこもっているわけだが、壁が震えるので、気になってしょうがない。
昨日は何か揉めているというか、ディスカッションをしているようで、喧嘩ではないのだろうけど、会話がかなりエスカレートし、白熱しており、壁の振動が半端なかった。
トイレに行く時に部屋を出ると、もう喋っていることが筒抜けで、聞く気にもはなれないから、父ちゃんは耳を塞いで、小走りでトイレに行かなければならない。
かなーり、奇妙な状態になった。想像してみてください。可愛そうな父ちゃん・・・。
真っ暗な部屋から響く男女の声に、父ちゃんはちょっとだけ、いやーな気分になる。寝る前に愛を囁きあうならば、こんなに大きな音させなくてもいいじゃないか、といやーな気分になるのである。それが昨夜は深夜三時くらいまで続いた。



で、今朝は、7時に起きて、顔を洗いに洗面所へ立ったところ、すでに部屋の電気がついていた。
多分、オンライン授業があるから、早起きをしたのだろうけど、息子の生息状況がつかめず、ちょっと苦労している。
ご飯の時には向かい合う親子だけど、会話がない時はほとんど無言で終わってしまう。
この子は自分が話したい時は鉄砲水のようにがんがん喋るが、不機嫌な時は一切喋らない。今時の子って、こういうものなのだろうか。
父ちゃんはいつだって息子の機嫌取りをしている状態なのだ。
夜中に自分の部屋の電気を消してスピーカーフォンで恋人と話すのやめてもらえるか、とも言えないので、還暦すぎのおやじは一人悶々と悩んでいる。
年頃の男の子との二人暮らしに、めっちゃ気を遣う父、さて、これから辻家は、どこへ向かうのであろうか。

つづく。

退屈日記「最近の息子事情。夜中に恋人と大声で話すのはいいのだけど」



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