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滞仏日記「ぼくには不可能という言葉はない。by 熱血父ちゃん」 Posted on 2021/04/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくの携帯は日曜日だというのに、朝からなりっぱなしである。
というのは日本のライブが中止になり、ぼくはパリのセーヌ川からクルーズ・ライブ配信をする、と宣言しちゃったので、やらなければならないことが山積みで、昨日、力を貸してくれそうな人たちに、
「こんにちは、熱血父ちゃんです、ご無沙汰してました。是非、お力を借りたい件がありまして」
とかたっぱしから電話をかけまくったのだった。
日本側のスタッフは距離が距離だけに「セーヌ川クルーズ&ライブなんてことができんのかよ」と、冷やかなのだ。ま、そうだろう。感染者が減ったとはいえ、一日、3万5千人も出ているフランスで、オーチャードホールでのライブが中止になったばかりなのに、できんのかよ、と言いたい気持ちはわかる。

悪いが出来るじゃなく、やる、だ。



あまりに誰からもいい反応が戻ってこないので、窓口の中原さんに思わず切れて、「こそこそしてないで、ロック魂でがんばろうぜ」と文句を言ってしまった。
今朝、「私、絶滅危惧種ですが、ロックです」と変な返事が戻ってきていた。やれやれ。
じゃあ、絶滅する前に、気合い入れようや、お互い、、、、笑。
ということで、ぼくが昨日、電話したのは、船会社Aの広報ぺリンさん、船会社Bのブリュノ、音響技師の二コ、カメラマンの光ちゃん、仲間のマコちゃん、アシスタントカメラの大ちゃん、それからピアニストのエリック、国虎屋の野本氏、そしてパーカッションのジョルジュ、などなど、、、



もしも、バトームッシュみたいな、そこそこ大きなペニッシュ(船)を借りることが出来て、そこの上でライブをやり、日本に生配信をした場合、映像や音をどうやって届けることが出来るのか、予算がまず無いなか(3回もコロナなどでライブが中止になりキャンセル料などで主催者には余裕がない、と中原氏)超低予算でそんな凄いことが出来るのか、課題しかない。
もう一度言う。課題しかない!

滞仏日記「ぼくには不可能という言葉はない。by 熱血父ちゃん」

ぼくのイメージはこうだ。
エッフェル塔の船着き場から、エッフェル塔を見上げながら、大きな船で出発し、ポンヌフ橋を潜り、ノートルダム寺院を横目に、日本なり世界中の観客の皆さんに、誰もいない、セーヌ川を遊覧しながら、2時間以上、辻仁成によるガイドツアー&辻仁成のライブを生で配信したい、という壮大な計画なのである。

今、世界中を見回してほしい。
誰も、海外旅行に行くことが出来ないこの時期に、ロックダウン下のセーヌ川を貸切って、ぼくらは大音量で日本&フランスの音楽をパリ市民へはもちろん、日本の皆さんにも届けることが出来るかもしれないのだ。
もちろん、これはあくまでもぼくの夢なのだけど、でも、いいですか? これが出来たら、人類を苦しめつづけているコロナたちの鼻を明かしてやることができるんじゃないの? え? 出来ない? 
確かにテレビ制作会社のえらい人はZOOMで「出来ないと思っています」と言ったけど、ぼくはできると信じている。やれない、という人間はきっとやらない人だと思う。俺はやる。絶対やってみせる。出来なかったら、逆立ちしてやる。←ちっちぇー。



ぼくが今日までに仲間たちに伝えたメッセージ、と、仲間たちからの返事をまとめた。
1,いくらでペニッシュ貸し切れるの? ※相場は大型船で100万円以上はかかるらしい。この回答に日本サイド、そんなお金はありまっしぇーーーーん、とのこと。燃える。
2,ロックダウンなのにライブはできるの? ※音楽制作やってる仲間からそれは「可能」という返事。おお、すげー。「ただ、警察署の許可が必要」とのこと。
3,その場合、どう許可とればいいの? ※船会社のぺリンさん曰く、私はできる、と。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! 待ってました。私はできる。いい言葉だ。
4,音響機材はどこで借りるの? ※うどん屋の野本ちゃんがPAを持っている(前回のライブの時に800ユーロの小型のPAを買わせたのだ。買っていただいたのだ。これからちょくちょくライブやるから買っといてよ、と・・・)、仲間のマコちゃんがマイク数本持ってるというので、それでやろうとしていたのだけど、エンジニアの二コが、そういう素人っぽいことをしちゃだめだ。と激怒。そして、辻はカッコ悪いこと、お金の心配とかすんな。俺が仕切ると言い出し、機材屋から大がかりな機材を借りることになった。予算がない、と言ったのだけど、金は巡ってくる、と譲らない。しかし、こいつのロック魂は気に入った。出来ないしか言わない腰抜けばっかりだったから、この男に勇気をもらった。俺はやる。

滞仏日記「ぼくには不可能という言葉はない。by 熱血父ちゃん」



5,雨降ったらどうするの? そこで相棒のマコちゃんにテントを探してくれ、と頼んだ。マコちゃんは日本のロックおじさん。元、アミューズ・フランスの社員だったが、現在は無職で、ぼくがパリでライブやるときは毎回、舞台監督のようなことをやってくれている。辻さん、テント会社見つけました、と連絡貰った。雨の場合はテント立てて、やればいい。そしたら、ペリンさんから、「テントたてたら、船長が前、見えないでしょ。絶対だめよ」と叱られてしまった。なるほど。←課題である。
もう一度言う。課題しかない!
マコちゃんに言ったら、「しかし、辻さん、辻さんは絶対パリを晴らします。5月30日、俺的には晴れっす!」ぼくはこういう理屈のない人間が好き。出来ない出来ない、という人間は、まずやってみようという気持ちがないのか、と思う。俺はやる。
6,日本にはどうやって配信するの? カメラマンの光ちゃん曰く「まかせてください。これはぼくの仕事です。必ず最高の映像を届けて見せます」「でも、予算ないよ。携帯しかない」「大丈夫。なんとかします」ううう、うれぴー。なんとかしますって言葉、誰も言ってくれなかった。俺はやる。
7,メンバーはどうするの? パーカッションのジョルジュに電話をしたら、いるじゃん、ここに、俺でよければ、飛んでいくよ。ピアニストのエリックも、ぼくは辻さんが好きだからいつでも駆けつけますよ、と。あまりギャラ出せないけど、いいの? 結局、世界一のジプシーバイオリンを入れたい、と二人にわがまま言ったら、ロシア系ポーランド人のマレックを紹介してくれた。音聞いたら、かっけーーー。ということで、さっき、メンバーが決定した。辻仁成(vo g)、ジョルジュ(ds,per)、エリック(p)マレック(v)4人編成だ!
8,ロックダウンなのにリハーサルできるの? パリ中の練習スタジオが現在ロックダウンで閉鎖中、リハーサルが出来ない。そのことをジョルジュに言ったら、「公園でやればいいんじゃないの?」「セーヌ河畔でもいいよ」とエリック。ぼくらは路上からはじめよう、ということになった。ホコ天だな。パリのホコ天だ!血糖値があがる。俺はやる。



ということで、もり上がっているけど、よーく再読してもらえばわかる通り、これはまだ全て仮説の話しで、問題の予算も機材もリハーサル場所も、いいや、なにより船だって、まだ何も決まってないのである。ぺリンは貸す気になっているが、誰が100万円以上を持っているのか、・・・課題は大きいけど、でも、少なくとも、そこへ向かっている。
何度でも言うが、課題しかない!
でも、俺はやる。

「パパはがんばるからな」
と夕飯食べながら、もう一人の相棒、息子に言ったら、
「出来なかったことはないじゃん」
とニヒルな笑い浮かべて言った。
よっしゃ! 

滞仏日記「ぼくには不可能という言葉はない。by 熱血父ちゃん」



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