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退屈日記「決して、息子を監視するためじゃありません。泥棒対策には監視カメラ」 Posted on 2021/03/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、郵便屋さんが荷物を持ってやってきた。
アマゾンなどでやたらちょこちょこモノを買っているので、袋を開けるまでそれが監視カメラセットだと、気づかなかった。あまりに小さいから、…。
2つ買うと1つおまけという広告につられて購入。3つで50ユーロ(6500円)と、まぁ、機能のわりに安い印象。
前の日記で、息子がぼくの留守中にガールフレンド君を家に招いているのじゃないか、と疑心暗鬼にかられて、監視カメラをポチした、と書いたような気もするが、断じて、それが目的ではない。
いや、疑ってます? ぼ、ぼくがそんなことするわけがないじゃないか! って、一人芝居をしている場合か。
これはマジ、泥棒対策なのである。信じてください。

退屈日記「決して、息子を監視するためじゃありません。泥棒対策には監視カメラ」




というのも去年の3月以降、フランスは頻繁にロックダウンや夜間外出禁止令が繰り返され、人々が家にこもりがちになった。
泥棒たちの仕事もやはり激減することになった。
けれども、変な書き方だが、彼らも生きて行く上で手をこまねいているわけにはいかない。このことは今朝の「パリ最新情報」でも触れているけれど、逆に追い詰められた泥棒やスリたちが生きるために危険な行動に出ている。
ここに来て、空き巣が増えているのである。
パリを離れて田舎の別荘に籠っている人たち、逆を言えば、ロックダウン期間中、家に戻って来れない。
泥棒たちが組織的にそういう家を割り出して犯行に及んでいるという。
そして、田舎に逃げている人たちの家を堂々と襲うのだ。
中には工事業者を装い、そのアパルトマの玄関にロープを張って、あたかも工事中を装い、堂々と扉を破壊して侵入したりするケースもある。
火薬を使って、ドアを爆破された知り合いもある。

地球カレッジ




管理人がいるところはまだ狙われる可能性が少ないが、ぼくが住んでいるところには管理人が常駐していないので、パリ残留組住人らと結束し、力を合わせて監視している。
しかし、これにも限度がある。
泥棒はプロフェッショナルなので、デリバリーのカバンを背負ってやってくることもある。見分けがつかない。
そこで監視カメラを付ける家が急増中なのだ。
ちなみに、ぼくが買ったこの監視カメラは3センチ程度の小型で、裏に磁石がついており、鉄があればどこにでもひっつく。
盗撮に利用している悪い連中も多いだろうな、と思った。
え? ぼく? まさか、そんなこと考えたこともないです。本当に、泥棒用の監視カメラなのである。信じてください。

退屈日記「決して、息子を監視するためじゃありません。泥棒対策には監視カメラ」




で、この監視カメラ、携帯のアプリを使って、自分がいない家の状態を監視できるし、24時間、そのデータが残る仕組みになっている。
我が町の用心棒、ユセフさんが共同オーナーをやっているバーにもこのカメラが仕掛けられている。
先日も常連客が店のスタッフのカバンからお金を盗む場面の撮影に成功し、この常連客が捕まり、永久追放となった。
小さいけど、優秀なカメラと言える。
ぼくはこれを自分の田舎に2個付ける予定だ。
そしてもう一つはパリのアパルトマンの玄関に付ける。
ぼくが田舎で生活をしている時は、息子が一人になるので、泥棒や悪い奴が来ないか、24時間体制でパリのアパルトマンを監視することが出来る。
監視という響きは嫌だけど、日本のような安全は、外の世界には少ないのだ。もちろん、こんな監視カメラ、何の役に立つのだ、という意見もあるだろう。
でも、何もやらないで手をこまねいているわけにもいかない。
フランスにももちろん、セコムのような会社があるけれど、通報が来るだけらしく、ならば、この小型カメラでも一緒じゃないか、と思った。




ロックダウンで集会が禁止されている今、若者は集まる場所がない。警察も全部をチェックできない。
そこで親がいない家に集まり密になって、その結果、感染が増えているという悪循環も実態なのである。
かまびすしい世界だけど、親がしっかりしないとならないのも、一理あるのだ。
なかなか、枕を高くして眠れる時代には程遠いのだけど、それでも、この小型カメラ、気休めにはなるかもしれない。

追記です。
※カメラ付けてるだけじゃ、泥棒には意味がない、という意見、あると思いますが、それでもカメラがあることをまず入口に表記しておくだけでも、抑止力にはなるんです。うちは日本で買った「監視中(英語表記)」ステッカーと偽物のカメラ(赤いライト付き)を外玄関に装着していたら、上の階の人たちに、心強い、どこで買うのか教えて、と言われました。その上で、家の中に、小型監視カメラを置く。これだとお金はかかりません。もちろん、それでも突破してくる泥棒はいますが、どちらにしても泥棒たちは武装しているので、何も出来ない。ぼくの知り合いは夜に忍び込まれ、殺されたくないから、ずっと寝たふりをしていたといいます。怖いですよね。
でも、映像に残っていれば、警察は動きやすくなるので、やらないよりはいいわけです。




自分流×帝京大学