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退屈日記「はじめて自費出版で電子書籍を出すのだ。コロナの時代の挑戦、1」 Posted on 2021/03/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、絶版になり日の目を見ることがなくなった、また読者の人には人気があるのに、次々に単行本を出さないとならない時流の中で、自分が好きな本が読者から引き裂かれていくことに、数年前から悩み、今までは書店さんとの長い関係もあったので、電子書籍を見送ってきたぼくだけど、絶版になった作品を中心に海外で暮らしている人や書店さんが近くにない読書好きな方のために生まれてはじめて電子書籍を自費出版することにした、と書いてからずいぶんと経つが、ぼくの作品の中ではもっとも文字数の多い(60万字程度)「オキーフの恋人、オズワルドの追憶」を一から書き直すという大変な仕事を続けてきた。これは小学館で20年くらい前に単行本化され、その後、新潮社、小学館で文庫化されたのだけど、絶版になっていた。かなりツカがあるので(小学館文庫で一番分厚い書籍であった)こういう大きい本は真っ先に絶版になってしまう。恐竜本だ。




とはいえ、出版社もそこまで本を管理できない時代になったようで、絶版のお知らせを頂くのは作家はつらく、ならば自分で管理をするのがいいだろうと思ったし、半永久的に保持できるし、書店さんで扱えないなら心を痛めず電子書籍化できるが、果たして電子書籍ってどうなのだろう、と思ったら、これが老眼のぼくには文字が大きくなるので読みやすかった。キンドルの機械がなくてもiPadなどでも読めるということだ。




それと海外在住の方や離島のような場所で暮らす方のような書籍をすぐに読めない方にはほんとうに便利なので、ここは電子書籍の役割は大きいと思った。
どうせなら、新しく書き直したもの、完全版みたいな、大きく加筆訂正をした最新版にするのがいいだろうと作業に入ったのだけど、これが本当に骨の折れる作業で、物凄く時間がかかってしまった。
今、ほぼ完了し、最終の校正チェックをやっている。
デザインストーリーズの編集部の力を借りて手分けして、校正などもやった。
自分たちで表紙のデザインもやった。来月には配信出来る見通しがたった。
割が合わない仕事かもしれないが、自分の作品がこの地球から消えてなくならないということは素晴らしい。

退屈日記「はじめて自費出版で電子書籍を出すのだ。コロナの時代の挑戦、1」

※こちらが上巻の表紙である。探偵小説というスタイルをとりながら、人々を不条理な世界へと引きずり込む、父ちゃんの野心作である。

地球カレッジ

退屈日記「はじめて自費出版で電子書籍を出すのだ。コロナの時代の挑戦、1」

※こちらが下巻になる。我が家のサロンの机の上のモロッコのお皿を撮影しただけだけど、雰囲気あるね。笑。いつもケーキの撮影をするテーブルの上です。こういう世界観が好きだ。




自費出版なので、これからキンドルの手引き書を見ながら配信作業に入るのだけど、最新版に手ごたえがあるし、面白い作品が仕上がったと思う。
過去作が現代によみがえるのは何より、とっても嬉しい。読みながら、20年前の自分、すげー、とか思ってる今の自分、…。新鮮だ。
絶版になったものを新しく蘇させるこの作業、まだ手探りだけど、DesignStoriesBooksがうまく動きだしたら、第二弾、第三弾と続けてシリーズ化したい。
それはつまり、ぼくの過去に鉱脈があるということだ。
家内制手工業の時代、とぼくが言い続けてきたことがここにきて、また一つの光りを灯そうとしている。コロナ禍の新しい挑戦、がんばる。読者の皆さん、出版メディアの皆さん、作家の未来を問うこの運動、ぜひ、応援ください。多謝。

退屈日記「はじめて自費出版で電子書籍を出すのだ。コロナの時代の挑戦、1」




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