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滞仏日記「パリを一望できる屋根の上から、遠くエッフェル塔を眺めながら」 Posted on 2021/02/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、いろいろと打ち合わせや撮影や締め切りや息子問題が折り重なって、どうも、ここのところ、ぼくの体調は今一つ芳しくない。
でも、老体に鞭打って(?)、今日は早起きをして、精力的に仕事をこなした。
いくつかの外回りの打ち合わせがあって、息子に食事を残してから、いそいそとでかけた。
最初の打ち合わせはパリ8区にある画廊さんでの打ち合わせだったが、
「ちょっと、辻さん、お時間があれば、屋上からのパリを見ませんか?」
とギャラリストのミキコ・ファビアーニさんに言われて、体調が悪かったので、何にも考えず、後ろにくっついて行ったら、不意に目の前に360度のパリが出現し、思わず、息をのみ、目と心が立ち止まってしまった。
「すげーーーー」
道を挟んで、アメリカ大使館、イギリス大使館、日本大使公邸もあり、そのむこうがエリゼ宮殿という立地、そのはるかはるか向こうに聳えるエッフェル塔が見えた。
「こんな世界があるんだ」
体調が悪かったぼくだったが、その眺望に度肝を抜かされ、思わず気分が晴れやかになってしまった。げんきんや奴である。

滞仏日記「パリを一望できる屋根の上から、遠くエッフェル塔を眺めながら」



「ここはなんですか?」
「屋上テラスになりますね。ここで、バーベキューとかやるんです。夏とかに、アーティストさんとか画廊の顧客さんとか、仲間とかお招きして。もし、よければ、辻さんも来てください」
「え? いいの? こんな場所で? 凄いね」
ミキコさんが微笑んだ。
「じゃあ、日曜日の地球カレッジはここからスタートしてもいいですかね?」
「あ、いいですよ。じゃあ、このハッチはあけときますね」
「おお、ハッチから出たんだ。今頃気づいた」
というこで、思わぬ展開となった。まばゆい。何て美しい光りなんだろう。

滞仏日記「パリを一望できる屋根の上から、遠くエッフェル塔を眺めながら」

※ちなみに、これはハッチではない。天窓である。



スタッフさんに、じゃあ、打ち合わせお願いします、と言われたのだけど、ぼくは降りたくなかった。
この画廊はパリ中心部の8区のど真ん中という立地にある。
つまり、ぐるりを見回すと、パリの全貌が分かる。
おそらく、このような立地はパリ市内でも数えるほどしかないかもしれない。
政府機関が集中した一等地なので、機密保安上も重要な地域にあたる。
警備も厳しいはずで、きっとここで生活をするというのも、それなりに大変なのだろうな、と思った。
5階がギャラリー、6階に生活空間があり、その上がこの屋上テラスということになる。
水漏れが一年6回もあるぼくのぼろぼろ仕事場兼住居とは雲泥の差であった。しゅん。

滞仏日記「パリを一望できる屋根の上から、遠くエッフェル塔を眺めながら」



下の階のご自宅も見せて頂いたけれど、光りの抜ける綺麗なお住まいだった。
ご主人のおじい様がピカソの絵などを最初に発掘したギャラリストで、この近くに、歴史的な画廊を経営されていたのだとか…。
キスリングが描いたおじい様の肖像画もあったりして、ミキコさんが語る話しはそのままフランスの、パリの芸術界を横断するような面白い話の連続であった。
ご主人のお父様も画廊を引き継がれるのだけど、ご主人は継がず、保険会社をおこしてそっちで大成功を遂げてしまう。
で、嫁いだミキコさんはもともとアートの研究者であり、日本の有名画廊でも働いていたご縁があり、三代目としてそこを引き継ぐことになるという、なんとも、夢のような凄い物語がファビアーニ家にはあった。

滞仏日記「パリを一望できる屋根の上から、遠くエッフェル塔を眺めながら」



ぼくらは5階の画廊に行き、日曜日の地球カレッジの配信テストをやったのだけど、画廊というよりももはや美術館で、今まさに、常設展をやっていた。
日仏の芸術家の作品をそこに展示し、顧客さんたち、といっても、一般客がふらりと入れる画廊ではなく、アポが必要で、プライベートな関係の上で絵の取引を行っているのだとか。
日本の有望な画家さんを発掘し、欧州で広めることにも、一つの生き甲斐を持っているようで、在籍するアーティストさんらの作品の説明には熱が入っていた。
ぼくも「永遠者」という作品で19世紀後半の、パリで活躍した画廊経営者の話しを書いたことがあるので、関心が高く、日仏の芸術の歴史をもう少し勉強したい、と思った。



回線テストが終わった後、常設展の展示作品をご紹介いただいたのだけど、これがまたとっても面白かったので、
「もしよければ、当日も作品を解説してもらえないですか? で、現代、或いは近代の芸術について語って貰えるといいのですけど」
と言ってみたら、もちろんです、と快諾。
ミキコさんの専門分野はエコール・ド・パリの時代から現代までが守備範囲なのだそうで、ぼくはすぐに、藤田嗣治を思い出した。
一時期、フジタを追いかけたことがあったので、当時の話しが聞けたらなぁ、とも思った。

芸術とパリってやっぱり切っても切れない不思議な繋がりがある。
画廊文化、画廊芸術からはじまるフランスの近代、現代のアートに関心のある皆さん、ぜひ、次回、2月28日の地球カレッジにご参加ください。
ということで、屋上で撮影したぼくの近影を最後に!

ピース! 心が晴れました。

滞仏日記「パリを一望できる屋根の上から、遠くエッフェル塔を眺めながら」

2月28日(日) 19:30 open 20:00 start 
ファビアーニ 美樹子 × 辻仁成 「アートを暮らしに、パリ・アートライフ術」

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*定員になり次第、締め切らせていただきます。
 



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