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滞仏日記「屋内マルシェでママ友たちとランデブー」 Posted on 2021/02/10 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ごろごろしていたら、レテシアからのメッセージが飛び込んだ。
「クック―(やっほー)、何してんの~?」
「ごろごろ」
「ヒトナリん家の近くの屋内マルシェに今、いるんだけど、ちょっと来ない?」
「行く」
超暇だったので、即答であった。

滞仏日記「屋内マルシェでママ友たちとランデブー」

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※カフェが封鎖中だから、みんな、外で、食べている。



行きつけのマルシェは、パリ市がやっているいわゆる移動マルシェで毎週、木曜日と土曜に立つ。
ところがうちの近くにある屋内マルシェは毎日、開いていて、しかも、ガラガラ。
いいもの置いているのだけど、多分、移動マルシェに比べると少し割高だからかな?
ただ、穴場なのは、マルシェの奥にスタンド・カフェがあり、席は封鎖されて座れないのだけど、スタンドがあるから、テイクアウトで買った人たちが、そのスタンドの周囲に屯して、なんとなく、カーニバルの夜店みたいな感じになっている。
長引く制限下にあり、人々の鬱憤も溜まっており、カフェ前に何げなく出された、仕舞い忘れたような恰好のテーブルなどに、テイクアウトのコーヒーとか、この時期だとヴァンショー(ホットワイン)を持って人が集まっては、周囲の目を気にしながら、小声でだべっている。
ほんとうはダメかもしれないけれど、地元警察も、馴染みだから、目を瞑ってる感じ…。

滞仏日記「屋内マルシェでママ友たちとランデブー」

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顔を出すと、レテシアとイザベルと、お、ソフィーまでいた。笑。
「ヒトナリ、遅い」
「いや、ちょうど、肉を味噌漬けしてたから、手が離せなくて」
「肉を味噌漬けって、どういうこと?」とイザベル。
「お味噌を肉に塗りたくって、ま、こっちのマリネだね。それを日本ではMISOZUKEっていうの。かなり美味いよ。味噌、最近どこでも売ってるんじゃん。それを買って、そのまま、塗りたくって、ラップで包んで、一晩漬けた方が、味が染みて美味いけど、半日でも、かなりいけるから、試してごらんよ」

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ぼくはフランス人と話す時、身振り手振りが相当、結構大げさになっている。
日本人と話す時は両手だらりんで、顔だけでクールに話すけど、フランス人はジェスチャーが凄いから、こちらも負けじとボディーランゲージになる。
これがね、めっちゃ楽しいのだ。
肩竦めたり、唇尖らせたり、首を傾げたり、口の両端を下げて見せたり、片手を振り上げたり、両手を半分万歳してみたり、ボワラ~、とか、バァー、とか叫んでみたり、4人も集まると、かなり、パントマイムも混じって、ストレス解消になる。
「へー、美味しそう。味噌大好き。健康にいいんでしょ?」
「バァーーーー、ア~ウイ。バァー、ウイ」
バァーにはぜんぜん意味がない。まあね、とか、ああ、とか、うーん、とか、そんな感じ。ラインのスタンプのこれに、そっくり。笑。

滞仏日記「屋内マルシェでママ友たちとランデブー」



とにかく、あらゆる会話にジェスチャーがついてくる。
だから、ちょっと大げさになってしまうけど、ま、お愛嬌。
フランス人気取って頑張る日本のおやじってところ。
こっちのマダムって、実はあまり気取らないから、会話は弾ける。普段、ぼくは聞き役なんだけど、この人たちとは長い付き合いだから、今日はつい、オーバーアクションになってしまった。
「ヒトナリ、最近どうなの?」
イザベルが言った。
「バァーー、今度ね、NHKがぼくのドキュメンタリーを撮るんで、ぼくの知り合いにいっぱい出て貰ってコロナ禍のパリ生活について語ってもらおうと計画中、…」
「へー、観たい」
「いや、観るだけじゃなくて、出てよ」
「え~~~、私たちが???」
大声を出したのは、ソフィーだった。
「こういう井戸端会議を撮影したいんだよ。和気あいあいとした普段の世界」
レテシアとソフィーとイザベルがお互いの顔を見合わせ、くすくすっと微笑んだ。
「フランスのマダムがどんな感じか日本の方々も興味あると思うんだよね。君たち、ほら、明るいし、コロナでもめげないし、とっても庶民的でいいと思う。ここで、こんな風に、ざっくばらんに立ち話しているの、いいよね。ドキュメンタリーっぽくて」
と言ったら、いきなり、イザベルが、私はやめとく、と言い出した。
「マジ? なんで?」
「私もやめとこうかな。その、こういうのって、カメラの前じゃ、かしこまっちゃって、笑顔とかむけられないし。ヒトナリの手伝いはしたいけど、見苦しいことは出来ない」
「ええ? そんな~。ぜんぜん、見苦しくないのに」
「やだ、二人がやらないなら、私もやらない。たしかに、座談会やるなら、スタジオでやりたいし、ここで立ち話とか、絶対無理ね」
4人はお互いの顔を覗きあって、一瞬、しーーーーーーん。
その次の瞬間、ふき出してしまうのだった。
なんとなく、予想していたけど、フランス人、普段弾けてるのに、敷居高いわぁ。
ぼくらは世間話しに移った。いつものグループフォンでの会話と違って、やっぱり目の前にいると話が盛り上がる。

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「知ってた? 英国変異株、致死率が従来型より高いんだってよ」
「マジ~~?」
「オリビエ・ヴェラン(健康相)が、ロックダウンはやらないかもって言ってた」
「マジ~~?」
「ついに、学校で自家製布マスクが禁止になるのよ。これからは不識布マスクだけ」
「マジ~~?」
「今日のフランスの感染者数、4000人だったわよ!」
「マジ~~?」
「アンヌが不倫しているって、知ってた?」
「マジ~~?」
「相手はジェローム先生よ、世界史の」
「マジ~~?」
「アンヌの旦那が学校に乗り込んだって」
「マジ~~? 修羅場~」
4人は、激しい身振り手振りで、いちいち、大げさに盛り上がったのである。
「確かに、こんなバカな会話、NHKで流せないわね」

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するとそこに、マルシェの警備員がやって来た。ぎょ!
「あの、奥さんがた(お、俺も???)、楽しそうで、恐縮ですけど、ここで屯するのはご遠慮願えますか? 通行の邪魔になりますから」
ぼくらは、一斉に肩を竦めて、ダコー(了解)と呟きながら、解散することになる。
ああ~、でも、楽しかった!
帰りに、すぐ近くのぼくの大好きなパン屋、ジェラール・ミュロで息子のためにキッシュとアップルタルトとホタテのリゾットBENTOを買って帰ることになった。←、ってか、味噌漬けはどうすんの???
たまには、気分転換、いいよね~。えへへ。

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自分流×帝京大学

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※、おまけ。えへへ。