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リサイクル料理教室「寒いこの冬にこそ、あったまるよ、ポトフ~!!!」 Posted on 2023/12/12 辻 仁成 作家 パリ

朝晩、冷え込んできましたですねー。
温かいものが食べたいシーズンです。
かつて、息子に教えた、あったかポトフの巻!
はじまりはじまり・・・。

本当に美味しいものを食べたいと思うならば、息子よ、時間をかけないとダメだよ~。
料理は愛情の結晶だからね、愛情は時短では作れないからね。

煮込み料理なんてとくに、時間と愛情と根気の産物なんだ。
時短の煮込み料理で本当に美味しいものなんかありえないよ。誓って言うけど。
実は、みんな知っているんだけど、忙しいから、時短に頼ってしまうようになり、結局、本当に美味しいものから遠ざかっていく。残念なことだと思うよ。
時間をかけることは別に苦じゃない。ちょっと気長に料理と付き合う気力があればいいだけのことだ。それで、最高に美味しいものを食べることが出来るんだから、…。
やっぱり、お金出してでも食べたいと思うような最高に美味しい料理は全部、それなりの時間を費やしているし、だからこそ、美味しいんだよね。
料理は手品じゃないし、アクロバットでもない。少なくともパパはそういうものを目指さない。だから、辻家はレストランに負けないくらい、美味しいものがテーブルに並ぶんだ。簡単なことさ。

リサイクル料理教室「寒いこの冬にこそ、あったまるよ、ポトフ~!!!」



電子レンジはすごい文明の器具だと思うけど、もちろん、パパも電子レンジに助けられているけど、電子レンジは最強のアシスタントであって、料理人にしちゃいけない。
自分で選んだ新鮮な食材を、自分の味覚を最大限生かして、丁寧に料理すること。
パパは残り短い人生だからこそ、本当に美味しいものだけを食べたい派なんだ。
高級食材を買わないと美味しいものが作れないというわけじゃない。でも、時間をかけることが出来れば、そこまで高級じゃなくても、高級食材に負けない味を引き出すことが可能になる。本当だよ。
「忙しい毎日だから、時短しかないの」というのはわかるけど、忙しいからこそ、パパは、食べることに命かけたい派なんだよ。わかるだろ? 
食道楽だからこそ、美味しいものを追及したい派なんだよ。



毎日、今日は何を食べようか、と考えない日はないし、一食、一食、全力投球で生きている。
だって、美味しいものを食べられる人生って楽しいじゃないか。
一食を台無しにすると、その日が最悪になっちゃう。だから、パパは、毎日、真剣勝負で料理をしているんだよね。その結果が、そう君だ。
健康100%で君が生きられているのは、美味しいものを食べ続けてきたからこそ。
毎日、八百屋に行き、魚屋に行き、肉屋に顔出して、買えるお金の範囲内でだけど、一番いい食材を選んで、それに愛情と時間を湯水のように注ぎ込んで、だな、どんなレストランにも負けない味を作ってきた、自負がある。
多分、君は本当に美味しいものをちゃんと嗅ぎ分けられる青年になってると思うよ。
何が美味しくて、そうじゃないか、をわかることは生きる上でとっても大事なことだ。
それは人生を豊かにする。
ああ、これは本当に農家の人が一生懸命時間と愛情をかけて育てた食材なんだな、と気が付ける人間であってほしい。
だからこそ、君は、食べものを粗末にしない、きちんと全部残さず食べきるじゃないか。それは、料理をし続けてきたパパにとって、何よりの誇りでもある。
お茶碗に、米粒が一つも残ってないのを見る度、心の中でガッツポーズをしてるんだよ。
農家の皆さん、漁師の皆さん、ありがとう、だよね。



ということで、今日は煮込み料理の決定版、ポトフを作ろう。見た目はぜんぜん、かっこよくない地味な料理なんだけれど、でも、この中には本当に美味しい野菜や肉のすべての旨味が詰まっているんだ。
三ツ星レストランで出されることは滅多にないけれど、日本の、たとえば豚汁に負けないくらいに、最高に美味しい家庭料理の主力選手でもある。
よし、じゃあ、一緒に作ってみよう。

まず、肉だが、塊ならば適当な大きさにカットする。丁子を刺した玉ねぎと一緒にそのカットした肉を鍋に入れ、ひたひたになるまで水と塩小さじ1、セロリの葉、タイム、ローリエを加え、火にかける。
沸騰するとアクが出てくるのできれいに取り除き、そのまま30分ほど肉だけを煮るんだ。

リサイクル料理教室「寒いこの冬にこそ、あったまるよ、ポトフ~!!!」



30分たったらにんじん、蕪、セロリ、長ネギを加え、火を強め、ふつふつと静かに沸騰するくらいの状態に持って行く。で、そこから1時間ほど、煮こんでいく。
その間に、別の鍋で、じゃがいもを茹でておこう。

野菜にもしっかり火が入り、お肉が柔らかくなったら(硬い場合はもう少し煮続ける)、塩こしょうで味を整え、じゃがいもを加え、同じ火の加減でもう15分ほど煮たら、はい、完成。簡単だろ? 大事なことは、必要なところに、必要なだけ時間をかけるということだけ。それだけなんだ。
本場、フランスのポトフの味付けは塩のみ。
お肉と野菜から出る旨味だけで、十分に美味しいよ。あとは、ディジョンのマスタードをちょっと垂らして、食べなさい。これこそ、幸せの味というものだ。
さぁ、喰うか!

【材料】
煮込み用牛肉500g、蕪3個、にんじん2本、玉ねぎ1個、セロリ1本、じゃがいも(メークイン)4個、長ネギ1本、丁子3個、乾燥タイム小さじ1、ローリエ2枚、塩こしょう。それと、ディジョンのマスタード、お好きなだけ。

リサイクル料理教室「寒いこの冬にこそ、あったまるよ、ポトフ~!!!」

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