JINSEI STORIES
退屈日記「雑感」 Posted on 2021/01/08 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ついにトランプ大統領が「敗北宣言」というニュースはいろいろな意味をぼくらに投げつけてきた。
額面取り受け止めるにはまだ時期尚早だけれど、4人の死者を出した米議会への蜂起扇動への責任回避はまぬがれず、孤立化は一層強くなり、スマートな後始末が出来なかったことで、4年後の大統領出馬は難しくなった。(?)。裁判もたくさん控えているしね。
アメリカで起きた米港議会へのトランプ支持派の占拠はアメリカ主要メディアが「テロ」という表現を使っていたけど、そうは思わない。
フランスでよく起こる黄色いベスト運動(マニフェスタシオン)とも少し違うし、もちろん1944年にスロバキアで起きた民衆蜂起の類でもない。
ぼくの目にはトランプ支持者の暴走に過ぎないと映っている一方、もっと根深いところにあるものはアメリカ型民主主義の滑稽な終焉イベントであった。
子供の頃に見上げていたあの偉大っぽいアメリカが、ここまで凋落するとは、ある意味、時代が変わろうとしている現実であろう。
米国議会がマスクもしない無知な国民に占拠されカオス・フェスみたいになった絵は、少なからず、中国指導部の人々に冷笑を提供したことになるし、アメリカを慕っていた日本の政権幹部は笑うことさえ出来なかっただろう。
議会議長席でふんぞり返るひげ面の無法者の映像は、笑いを通り越して、ぼくなどは凍り付いた。
こんなこと、後進国でも起きないし、まるでどこかの未開の島国での出来事のようで、世も末がここまで来たのか、という失望しかおきなかった。
そこまでここ数年はアメリカに期待などなかったけれど、ここまで落ちると日本が想像以上の悪影響を受けることは間違いなさそうだ。
何が起こるのかは、これからのことになるのだけれど・・・。
※彼が座っているのは、ペロシ議長の席らしい。
なにせ、一日に4千人近くもコロナで亡くなる毎日、一日の感染者は24万人なのに、なんでマスクもしないでトランプ支持者は米議会を占拠し飛沫を飛ばしあって文句をいい、感染しあって、死のうとしているのか、それが愛国心からなのか、単なる憂さ晴らしなのか、アメリカ人の気質なのか、コロナでおかしくなったか、ともかく、普通の人間が考えられる出来事ではないし、そういう国が超大国としてやっていけるはずもない。
世界中の人が「アメリカ制御不能じゃん。こんな国に世界の警察任せられない。自分の国は自分で守ろう」というまっとうな認識を与えるイベントになった。
トランプ氏の腹心のペンス副大統領がはじめて、まともに見えた日でもあった。
アメリカ終焉SNS映像が世界をかけめぐり、恥さらしもいいところで、地に落ちたことを決定づけたわけで、もっと言えば、この分断するアメリカは今までのアメリカとは違い修復に相当な年月が必要となるアメリカンスピリッツのメルトダウンだとも言える。
何よりも、あれだけお年寄りのバイデンさんにその二つに割れたアメリカを繋ぎ合わせる若さと情熱があるだろうか? あるように、誰の目に見えているだろう?
嫌味じゃないのだけど、なぜなら、バイデンさんがマイクの前に立った時の映像は誰がどう見ても新大統領じゃなく、元大統領という姿だからである。(ごめんなさい、バイデンさん!)
コンテやマクロンやメルケルやジョンソンのようなエネルギーは感じられない。
しかし、大きな流れで見ると、アメリカは静かに終わっていき、台頭する中国の時代になるのは間違いないなさそうだ。
冷静に分析をすれば、中国の戦略は、無能で肥大化したアメリカを静かに各地で封じ込めつつあり、ドイツもイギリスも、アングロサクソン系の国(もしくは白人系世界)はどこもすべてがコロナの被災地であり、世界のために力を合わせる状況下にはない。
後進国を救うために軍隊やお金やワクチンや医師団を派遣できるのは中国しかない現状は当面間違いないだろう。
少なくともアフリカ諸国はもはや中国を必要としている。
アメリカ軍も半減されるだろうし、「核の下」という言葉の明記だけで日本が安泰という時代ではないので、日本はアメリカの顔色はもう気にせず、アジア、欧米の、世界各地の国や地域と新たな経済や政治や環境問題での連携を模索しないとならなくなった。
しかし、政治舞台でイニシアチブをとれる、そこまでグローバルなビジョンを持った政権が日本にあるとも今は残念だけど思えないので、アメリカの凋落の余波を脆に受けるのだけはなんとか避けたい。
政治がしっかり機能していないと、結局、辛くなるのは国民になる。
いいか悪いかは置いといて、知恵のある政権を持った国とそうじゃない国とに明暗が分かれるこの2021になるだろう。
何で日本はこんな大変な時代に「オリンピック開催国」なんかのクジを引いてしまったのか、とその一点は実に残念でならない。開催国でなければ、今ごろ、感染者最小限の国だったかもしれないのだから。
オリンピック史上最大予算がかかる東京オリンピックが日本国民を豊かにすると思っている他国のメディアは今のところない。