JINSEI STORIES

「2020年、結びのことば」 Posted on 2020/12/31 辻 仁成 作家 パリ

今年はコロナで始まり、コロナで終わろうとしていますが、今、おせちを作りながら、やっぱり希望を持って生きていきたい、と強く心に誓っているところです。
さっき、今年最後の買い物をしての帰り道、「どんな状況下であろうと、出来る限り楽しいことを見つけて、誰とも会えない状況であろうと心にゆとりを持って、出来るだけ笑って過ごしていきたいなぁ」と思ったのです。
そしたら、不思議なことに気が、いや、心が楽になりました。
このどうしようもない欧州の感染状況の中で一年生きてきましたが、大変苦しかったです。
二度のロックダウン、夜間外出制限、日本での自主隔離などなど…。
しかし、子供たちにとってはいきなりの制限生活、大人はまだ青春時代があったからいいけど、子供のことを思うと、胸が痛みます。
どこのお子さんであろうと、小さな子たちが、笑顔を絶やさない世界であってほしい、とこの星で生きる父ちゃんは願うのです。

「2020年、結びのことば」



そのためには少し先に生まれた大人が、ここは踏ん張って導いていかないとならないわけで、そのためにはへし折れている場合じゃない、と自分に言い聞かせて、歩いて帰ってきました。
途中で、お母さんに手を引かれる幼子とすれ違ったのだけど、そこにある可愛らしい命や、そこにある無限の未来のためにも頑張らなきゃなぁ、と思いました。
そういう気持ちを皆さんと共有していけたら、と思っています。

「2020年、結びのことば」



日本も一日の感染者がずいぶんと増えました。でも、その数字がどんなに増えても、結局、自分の身は自分で守るしかない。
人の多いところに出て行けば感染をする、これはもう事実です。
その時、無防備にならないよう、気を緩めないよう、警戒と用心をし続けましょう。
ウイルスとの闘いで一番大事なことは、ウイルスに近づかないことであり、行動の抑制こそが一番の予防と防御になります。
感染力が増しているかもしれない新型のウイルスにしても、ぼくらがやるべきことは手洗い、マスク、しかないのです。
そして、知り合いであろうと必ず距離と壁を持って接する行動姿勢が大事です。
ウイルスの方から勝手に近づいて来ることはないのだから、こちらが相当に用心し、自分の行動を強く制限し続けることができれば罹りにくくなる、もしくは罹らない、ということです。

「2020年、結びのことば」



ぼくがこの一年で学んだことは、経済活動と感染制御の両立は無理だということでした。
これは世界中の政治家が試みてきましたが、ペストの時代と何も変わらず、最終的にはロックダウンしか手がないことも残念ですが、わかってしまいました。
フランスもロックダウンをやれば、ぐんと感染者数が減ります。これは事実です。
グラフを見れば誰でもわかることです。
でも、それが出来ないのは経済の問題で、なので、両立は簡単ではない。
だましだまし、というか、制御したり、開弁したりしながら、ワクチンなどの成果を待つしかないのかもしれません。
コロナの恐ろしい毒性でしょうが、どちらにもアクセルを踏み込めない状況、つまり、それぞれの立場で意見が分かれ、人類は対立をしていくことになりました。
アメリカなどがその最たる例です。
でも、じっと何もせず元の世界の復元を待っていても、人間性が保てなくなるばかりだから、ぼくは笑顔を絶やさないように、どんなに過酷な状況下であろうと家族、ぼくの場合は息子ですけど、を大切にし、その小さな世界の中で、多くを望まず、堅実な幸せをかき集めて、2021年も生きてゆきたい、と決意しているのです。

去年の今頃、ぼくはこのような世界が来るとは思ってもいませんでした。
来年の今頃、ぼくはすべてが明るい方へ転じて笑顔で息子と生きているかもしれません。
こういう発信の場所を利用して、出来るだけ多くの人とありとあらゆる可能性を模索しながら、コミュニケーションを取り合い、孤独を紛らわせ、繋がっていきたい、励まし励まされていきたいと思っています。
だから、いつもありがとう、と今年の結びのことばを言わせてください。
同じ時代に生きていることを噛みしめて、明日を信じて生きて行きます。
ぼくらの力をあわせて、少しでも、良い年になるよう、精一杯、生きていきましょう。

                                  作家

「2020年、結びのことば」

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