JINSEI STORIES
滞仏日記「それでもクリスマスはやってくる!」 Posted on 2020/12/24 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は前日依頼の急な取材が入った。
悩んだけど、たまたま朝の八時から仕事場の窓の交換工事があったので、収録中は音の出ない工事をしてくれ、と依頼し、工事の合間を縫う形で収録という離れ業をやった。
朝の九時から、NHKのニュースウオッチ9という夜の報道番組のコメント収録がはじまった。
有馬キャスターから、ZOOM越しに「欧州のコロナ状況下におけるリーダーたちの言葉」について質問を受けた。
「今年一年をふりかえって、どのような欧州のリーダーが心に残りましたか」というような内容であった。
短い(多分、2,3分)コメントになることは知っていたのだけど、話し相手がいると、言葉というものは溢れ出るものだ。
長いロックダウンが続いたフランスにいて、片言の仏語で、フランス人としか話しをしてないからか、日本語が心に刺さる。
日本語で自分の意思を伝えられるのは、実に楽しい。
地球カレッジをはじめたのも、言葉を使う喜びを得ることが出来るからであろう。まあ、結構、話したと思う。
全部語ったことは放送されないと思うので、ネタバレにならない程度でお伝えすると、英国のボリス・ジョンソン首相、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、そしてイタリアのジョゼッペ・コンテ首相などが国民にどのような言葉を投げかけ、それがどのような意味を国民にもたらしたか、或いは励ましたか、ぼくの心に焼き付いた彼らの言葉を引用し、ぼくなりに思う、コロナ時代のリーダーのあり方、について語らせて頂いた。
面白いことに、誰かにむかって言葉を発する、自分の頭の中にあることが整理されていき、なるほどね、ぼくはこんなことを考えているんだ、と逆に教えられる。
ずっと家に籠りっきりのぼくには有馬キャスターと話せたことが大いなる気晴らしというか、普段言えないことを伝える相手が不意に現れ、思わず楽しいひと時になった。こっちが出演料を払いたいくらいだった。笑。
出演時間が3分くらいと訊いていたので、長くても30分くらいで終わると思っていたから、工事業者さんに、とりあえず3,40分は音を出さないように、と伝えていたが、結局1時間を超える話しになって、45分過ぎたくらいからドア越し(ガラス窓)に背がめっちゃ高いロシア人たち(建設系にロシア系移民の方が多いね)が次々顔を出し、まだか、まだか、まだかぁ~、と何度も合図を送ってくるものだから気が散ってしょうがなかった。
彼らも、クリスマス前に終わらせないとならない工事がてんこ盛りなのであろう。悪いことをしてしまった。※ちなみに、放送は今日、24日だそうだ。
工事も終わり、NHKの取材が終わると、ぼくは車でパリ中心部のパレロワイヤルを目指した。
日曜日にパレロワイヤルのど真ん中スタートで、地球カレッジを配信する。その回線チェックを日本側とやった。
パレロワイヤルはボージュ広場と並んで回廊が本当に美しい、パリの超観光地の一つだ。
まず、講座冒頭は、パレロワイヤルの美しい回廊を散策しながら、ワインについて語りはじめる。
その後、劇作家モリエールが暮らしていたアパルトマンを改造したレストランへ移動し、蔵として使われていた場所だそうだが、そこからワインの醍醐味について、とことん話題のソムリエの杉山明日香氏と語らせてもらう。※ちなみに生配信は日曜日、19時半開場である。
回線チェックの後、左岸の老舗デパート、ル・ボンマルシェに息子や明日遊びに来るニコラ君たちのプレゼントを買いに行った。
だいたい、彼らが欲しそうなものは目星がついていたので、サクサクと揃えることが出来た。ニコラはプラモデル! 息子は、ウフフ…。
パレロワイヤル周辺も美しかったけれど、ボンマルシェ内の飾りつけも実に美しかった。クリスマスツリーが天井から幾本もぶら下がっていて、思わずうっとり。今年一年を思わず振り返りながら、やれやれ、と思わず呟いてしまった。
それにしても、物凄い人出である。
ドイツ、イタリア、イギリスがロックダウンをしているというのに、フランスは全開状態で、これでいいのか?(マクロン大統領は感染から一週間が過ぎたらしい。復帰が近い)
カフェは封鎖されているはずなのに、デパート前のカフェ前は若者が群がり、ビール片手に大盛り上がりで、こりゃ、年末明けにまたまたロックダウン間違いなしだな、と正直思った。もう、だいたい、分かってきた。
封鎖して解除したら、若者たちが暴れて感染拡大、で、また封鎖、という悪循環は暫く続くのだろう。
そのうち、ワクチンが改良されて、効き始める頃には、新型コロナもインフルエンザのような感じで弱毒化し、というか馴染んで、もしかすると新たな日常が戻ってくるかもしれない。それでも、希望が見えだすのは、早くて、来年の秋、以降になるだろう。
食料品館でなんかクリスマスっぽものを買おうと思ったけど、歩けないほどの人なので、怖くなって、出てしまった。
裏路地をとぼとぼと歩いていたらイタリア人がやってるオリーブオイルの店があり、そこのマダムと仲良くなった。
ボンマルシェとは対照的で、客はぼく以外一人もいない。
夕食をまだ決めてなかったので、マダムのおススメの白トリュフとキノコのクリームソースというのを買った。800円。
ぼくはこれを鶏の皮の下に詰め込んで、皮目をしっかりグリルし、そのあとオーブンで優しく火を入れ、そのだし汁とモリーユ茸とをあえたクリームソースを作り、焼きあがった鶏肉にまわいがけし、息子とクリスマスの前夜祭を祝った。
とくに、何もない一日だったけど、有馬さんからはじまり、鶏肉の白トリュフソースがけまで、とんとん拍子の忙しいイブイブになってしまった。
こんなに大変な時代なのに、いつも通りのクリスマスがやって来たことが、不思議。
あ、日本はすでにクリスマス・イブだね、メリークリスマス!