JINSEI STORIES
滞仏日記「江國香織さんが地球カレッジに出てくれるかも、という知らせ舞い込む」 Posted on 2020/12/22 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は、昼ごはんを作っていたら、キッチンの棚の角に頭をぶつけて、持っていた湯沸かしポットを落とし、倒れこそはしなかったけど、蹲って動けなくなり、誰もいないので、這って寝室まで戻り、ほぼ一日、寝込んでしまった…、(ついさっきまで)。
というのは、棚の角が込め込みの横に命中したようで目の前が一瞬金色に輝いた。
助けてくれる人がそばにいないので、むっちゃ、生きることに自信を無くし、寝た。
途中、一度、ドアベルが鳴ったのだけど、ほっといたら、息子が出てくれようで、
「パパ、明日、なんか荷物が届くみたいだけど、大丈夫?」
と言われた。
「あれ? お前、何で家にいるの? 学校は?」
「なんだよ。冬休みに入ったんだから、学校ないよ、しっかりしてよ」
と言われ、ますます、生きる自信がなくなってしまった。情けない…。
そこに、夕方、東京の個人事務所から、『江國さん、地球カレッジ、登壇してくださいます』とLINEメッセージが入ったのだ。
「え? わ、やった。今日、一番いいこと」
寝込んでいたけど、その瞬間、いろいろなことが走馬灯のように記憶の荒野を駆け巡って、寝ていられなくなり、復活となった。
げんきんなものである。
登壇がいつになるか、細かいことはこれからだけど、いいニュースなので、暗いご時世だから、皆さんにいち早く知らせたくて、自分も励ましたいので、ここに取り急ぎ書いている。
多分、やってくれる、と思うよ。96%以上の確率で!!! 笑。
同時に、その日までは頑張らなきゃ、とパソコンに向かって、呟く、父ちゃん…。
頭? 多分、大丈夫。今日は、2020年の12月22日、日本時間、3時25分だ。無理しないように、生きなさい、という神様からの指令だと思っている。えへへ。
もちろん、江國香織×辻仁成の地球カレッジの日程や内容は、全部、これから…。
まだ何も決まってないけど、
「冷静と情熱のあいだについて、振り返ってみたいなぁ」
と伝えて貰った。
自分で言えばいいじゃない、と思われるかもしれないけど、実は江國さんのメアド知らないのだ。昔、知っていたものは、なぜか送信できない、古すぎるのかもしれない。
それくらい普段はコンタクトをとってない。
でも、会うと、いつも、
「やあ、やあ、やあ、辻さーーーん」
となる。
「うわぁ、やあ、やあ、江國さんも元気ィ~」
となる。実に不思議な関係なのだ。
思えば、江國香織さんとはこの十年だと、2回とか、そんな程度しか会ってない。
ぼくがパリに渡ってからは、ぼくの離婚直後に一度、フランスに仕事があったついでに編集者さんらと、うちまでやって来てくれた。
息子に野球のグラブを届けに来てくれたのだ。
その前の十年は編集者さんらともう少し頻繁に会って飲んでいたけど、お互い、いろいろと人生があるからね、ご無沙汰が続いている。
地球カレッジも、一番最初に、とは思ったけど、江國さん、パソコンとか機械が苦手だから、少し、慣れた頃に、と思って時を待っていた…。
満を持して、登場ということで、嬉しいじゃないの~。
なんとなく、打診して貰ったら、いいなぁ、やってみたいなぁ、と言ってくださったのだ。嬉しいじゃないの~。
ぼくらは、小説だと「冷静と情熱のあいだ」と「右岸」「左岸」を共同執筆している。
この2作品はぼくらにとっては重要な作品でもある。
この手法はその後世界各地で(?)同じような、複数の作家が一つのテーマについて作品を書くことに繋がるのだけど、もしかすると、そのスタイルの最初だったかもしれないね。
でも、その当時のことを二人で向き合って語り合ったことはあんまりない。
宣伝の時とかに、当たり障りなくちょっと語ったくらい、かなぁ。
或る意味、ぼくは作品が全てだと当時は思っていた。
でも、あれから、20年が過ぎた?
ともかく、物凄い時間が流れた。
二人ともまだ生きていて、なんとか、生きていて、なんとか、書き続けている、このコロナの時代にも。
でも、コロナの時代で、ここはフランスだし、変異種が暴れ始めているから、ぼくが元気なうちに、話したいこともあった。
だから、この閉塞感の強い時代に、ちょっとお互いのことを語り合うのもいいな、と思ったのだ。
そういう意味では地球カレッジはとことん語り合う場所として、ふさわしい。
エピソードも含め、「冷静と情熱のあいだ」をもう一度、振り返る時間になれば、そして、それがぼくら二人の小説や文学にとってどういう意味があったか、人生においてもなんだったか、を振り返る回になれば、と思う。
オンラインだけれど、こうやって、ちゃんと向き合わないと、思い出せないこともあるだろうし、逆に、思い出せることもあると思う。
実は江國さんとぼくを繋いでいるスタッフがいる。
菅間理恵子さんというぼくの個人事務所の大黒柱で、江國さんの信頼も篤いのだ。
今回は菅間が中心になり、この企画を組み立てていくことになった。※designstoriesのツイッターの中の人、いつもカエルの写真を撮ってる人だ。笑。
ぼくらはどうやってあの素敵な主人公たちを生み出すことが出来たのであろう。
ぼくも、もう一度「あおい、と、じゅんせい」読み直してみようかな。