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滞仏日記「息子に怒鳴られたフランス人の大馬鹿野郎たち。ぷんぷんぷん」 Posted on 2020/11/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、なんだか、日本が大変なことになっている。三連休がはじまったところで不意に専門家の提言を受け、菅首相が一転GoTo見直しを表明とのニュース…。息子が言ってたような感じになってきた。
すでに三連休ど真ん中で、この影響は今後どう出るのだろう?
フランスも来週の火曜日にマクロン大統領が何か発表するようだけど、…さて…。
で、今日は土曜日、昼過ぎフランス人の仲間たちから「ツジ、宴会やるから、来ないか」というお誘いメールが立て続けに4件も入って、びっくりした。
みんな、退屈してんだね、いやはや…。



そうなるよね、と息子がフランス語で言った。
「でも、パパ、行っちゃだめだよ。コロナの思うツボだからね」
「行かないよ、行くわけないやん。みんなにヤメとけって。酒が入って、換気の悪い部屋で宴会やったら感染するぞ、アウトだぞって、メールしといた」
「で、なんて?」
「大丈夫、みんな陰性だからって」
息子がため息をついて、肩を竦めた。
「ラテンの連中を家に閉じ込めるのは無理なんだよ。だから、ぼくはロックダウンに反対なんだよ。ロックダウンをしてちゃんと守れるのは日本人だけだと思う。フランス人は、最初は言うこと守るけど、最初だけ、もう限界だと思うよ。彼らは政府の法律の盲点をついて、外出許可証の捏造をして(二枚書いたり、時間ずらしたり)、友だちの家に行き、見つからないように雨戸を閉めて、三密になって、酒を飲んで、夜間出歩けないから、朝まで狭い部屋で飲みまくって、二日後全員、ポジティブってわけだよ」
「なるほど」



「その上、ロックダウン中で仕事も今まで通り出来ないし、遠距離移動が出来ないし、コンサートなど娯楽も制限されてるから、家飲みに走り、成果を出せない政府を無能呼ばわりし始める。で、政府が仕方なくロックダウンを解除すると、途端にみんな遊びまくって、コロナ忘れて、感染再拡大。当然、医療崩壊が起きる。で、またロックダウン。この繰り返しのせいで、学校制度も崩壊、経済も崩壊、負の連鎖でフランスの国益は戦後最低を更新中。でも、日本人は物凄く真面目だから、ロックダウンは有効だと思う。仮に、日本でロックダウンを2週間やったら、感染者は限りなくゼロに近くなるだろうね。ロックダウンが出来る国と出来ない国とに分かれる、日本は出来るよ」

滞仏日記「息子に怒鳴られたフランス人の大馬鹿野郎たち。ぷんぷんぷん」



「ツジー、何してんだよ、来いよ。フィリップの店のドアを閉めて、シャッター降ろして、安全な感じでアペロやってるから。来いってば」
「警察が馬にのって、結構、この辺巡回してんぞ」
やれやれ。
「ツジ~っ、お前がいないとつまんね~よ。ギターもって来いよ。夕飯の買い物のついでにちょっと顔出せばいいだろ? おれとドミニクとエロイーズとルイとジャンリュックだけだから、お前いれて、6人。集会が禁じられている人数以下だ」
「いやいや、そういう問題じゃないでしょ。警察に通報されたら、135ユーロの罰金だぞ」
「135ユーロくらい、大したことないだろ? 払ってやるよ。人生、腐らせるくらいなら、135ユーロくらいくれてやれよ、政府に」
「警官の判断だから、悪質だと思われたら3000ユーロだ」
「ちぇ、日本人ってのは臆病ばっかの意気地なしだな。侍魂はどうした? マスクして来いよ。マスク外せないなら、マスクに穴開けてストロー差して、飲みゃいい、お前にあってる」
ピエールの背後から笑い声が弾けた。やれやれ。こりゃあ、あかん。みんな出来上がってる。
「ジャンジャックが美味いワインを持ち込んでるから、何も持ってこなくてもいい。どうせ、買い物に出るんだろ? 目の前がカルフールだから、そのついでに小一時間飲んでけ。外出できる最大限の時間、遊んでいけばいいんじゃないの?」
「いや、息子がいるし、夕飯作らせきゃならないし。馬に乗った警ら隊が…」
とその次の瞬間、ぼくの背後から、飛び越えるような勢いで、
「馬鹿じゃないの?! おじさんたち!!!」
と叫び声があがった。慌てて振り返ると、背後に、怖い顔の息子!!!!
「みんな頑張ってるのに、あんたみたいな人間がいるせいで、ロックダウンがいつまでも終わらないんですよ。頭あるなら、ちゃんと使ってよく考えてください!」
と息子が怒鳴った。
あちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。



慌てて、ぼくはそこを離れて、隣の部屋へと逃げた。
「わっつ? わっつ??? わっーーーーつ? (なんだと?)」
ピエールの声がぼくの鼓膜をひっかいた!
「わっつ? わっつ? なんだってぇ?」
「さあ、なんだろうね。俺じゃない。天の声?」
ぼくは追いかけてくる息子を振り返り、あっち行け、と睨んで追い払った。
息子はクールな顔で、肩を竦めて、踵を返し、そこを離れた。
「わかったわかった、買い物行かないとならないから、あとで、差ししれの卵焼きを持ってく、店の中には入らないから、ついたら電話する、顔出せ、いいな? ちょっと挨拶したら、戻る。じゃあ、あとで」
と言って、携帯を切った。ふー。
振り返ると、ドアのところに息子が立っていた。
「パパ、もしも、15分で帰って来なかったら、ぼく警察に通報するからね。わかった?」
「はい、わかりましたぁぁぁ」

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