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退屈日記「再ロックダウンでもうダメ、離婚を考える主婦たちの本音トーク炸裂」 Posted on 2020/11/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝、息子が学校に行ったと同時に、クレールから、「離婚するかも」というつぶやきが、フランス人のママ友グループのチャットに上がった。
え?なんで、と思いながら息子が脱ぎ捨てたパジャマなどを拾って畳んでいると、「私も、マジ、もうダメ。誰か弁護士紹介して」とレテシアからのメッセージが続き、「馬鹿ね、ソフィーに聞きなよ、離婚専門の弁護士なんだから」とメラニーへと続いた。
暫くすると、「別に離婚専門じゃないわよ。でも、今、もう手一杯で、仕事としては無理だけど、どうしたの?」とソフィー。
これは一荒れするな、と身構えた父ちゃん、ネスプレッソでコーヒーを淹れ、ソファに座って、ニコニコしながら、携帯を握りしめるのだった。えへへ。

退屈日記「再ロックダウンでもうダメ、離婚を考える主婦たちの本音トーク炸裂」



クレール「ロックダウンのせいよ、旦那がテレワークでうちにいる」
ソフィ―「いいじゃない。家事の役割分担できるし」
クレール「(怒りのスタンプに続き)ハ、まさか。あれが手伝うわけないでしょ? そればかりか、狭い家の一番いいサロンのど真ん中にパソコン待ちだし、これから大切なZOOM会議だから、この部屋に入るな、息を潜めてろって」
レテシア「マジ? 腹立つわ~。何様?」
クレール「しかもよ、上の子は学校だけど、下の子が騒いだり部屋に入って来て、後ろを過ると仕事仲間たちにかっこ悪いからキッチンに閉じ込めておけって」
フフィー「キッチン? 下のニナはまだ2歳でしょ?」
クレール「そうよ、一人に出来ると思うの???? 上の子は連れ子だけど、下の子は彼の子なのよ。高齢出産でなんとか生んで、頑張って育ててるの、彼も知ってるし、望んだのはあいつなんだから」
イザベル「クレール、あなたどこにいるの?」
クレール「今は食堂だけど、会議が始まったら、一番奥にあるキッチンに行けと言われてる。赤ん坊に泣かれると困るからって。じゃあ、家事はどうするのよ? 会議は3時間断続的にあるのよ」
一同「三時間? メルド(くそ)」
レテシア「そりゃあ、離婚したくなるの当然ね」
クレール「なんでもコロナのせいにするなよ、ぼんくらがって感じよ。男って、どうしてああ、低細胞なの? 家事は仕事より低いわけ? わたし、奴隷扱いされる覚えないわよ。離婚でいいと思う人?」
一同「は~い! 賛成!」
イザベル「でも、ちょっと待って、冷静になろう。これはコロナのせいであって、お互い、譲り合わないと、世界中で離婚が増える」



ソフィ―「イザベル。私のところに来る仕事のもはや6割が離婚、4割が倒産案件よ。増えるんじゃなくて、現実はみんな離婚をしているか、離婚を考えてる状態」
クレール「春のロックダウンの時にすでにこいつとはもうダメだな、と思った。この人は家族よりも仕事が大事で、コロナでも仕事優先で、あの時、すでに心が離れたの。そして、今回の二度目のロックダウンで決定的になった。もう、私の気持ちは変わらない。子供のことを考えても、自分のこれからを考えても、ちゃんと一人の人間として扱ってくれる余裕のある男のところに行きたい。ソフィ―、相談に乗ってもらえないかしら」
ソフィ―「オッケー、特別になんとか時間作るから、安心をして」
イザベル「でもさ、そんな男いる?」
レテシア「いつなら、私が紹介してほしいわ」
レイラ「でも、ソフィー、ちょっと違うけど、私もなの、相談に乗ってもらえるかしら?」
ソフィ―「レイラ、何が?」
レイラ「私も離婚をしたい。真剣に考えてる」
イザベル「レイラ、あんた新婚じゃん」
レイラ「それがね、夫には恋人がいたのが分かった。しかも、男性で、その人にも家族がいのよ。(この部分、説明が難かしく生々しいので書けませんが、ご想像ください)」
一同「セブレ?(日本語のマジかという感じだけど、仏語では、c’est vrai? セブレ?となる)」
レテシア「わかる。うちのも、バイセクシャルだから」



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一同「セブレ~?」
イザベル「どうやって、分かったの?」
レテシア「そういう、アプリを携帯に入れていて、見ちゃったの? そのアプリってね、自分の居場所から半径100メートルにいる同じような人たちとコンタクト出来るんだよ。で、彼はうちの近所の同じようなセクシャリティを持った人たちと頻繁にやり取りしてる履歴があって、読んじゃったのよ」
一同「・・・・」
ソフィー「あの、で、その、なんて? なんて、書いてあったの? あの、言いたくなければ言わないでいいのよ」
返事なし。

退屈日記「再ロックダウンでもうダメ、離婚を考える主婦たちの本音トーク炸裂」



クレール「・・・話題変えましょうか、こういう時はヒトナリがいいわ。ヒトナリ? いるの?」
ぼくに白羽の矢が立つ。
ぼく「いますよ。皆さん、お元気ですか? ぼくは先週、日本から戻ってきました。二週間の自主隔離があり、ちょっと仕事して、で、戻ったら、ロックダウンだった。あはは」
レイラ「話を戻すけど、ヒトナリ、あんた夫に男の恋人がいた場合、作家的にはどうするべきだと思う? あなたの意見を聞いてみたいわ」
ソフィ―「話し戻すの、やめないさいよ。それは一種の差別よ」
ぼく「いや、ぜんぜん、いいですよ。その、許せないなら別れればいいけど、彼らが男同士だからとかじゃなくて、彼の愛が冷めてるなら、別れたら? 大事なのは、そこですよね?」
レイラ「あんた、もっともらしいこと言うのね」
ぼく「気持ちはわかるけど、レイラ、ようは、二人の愛が負けたということでしょ? セクシャリティの問題じゃない気がする」
一同「〇▽□✕✕Ωω+□〇・・・・」
なんか、ぼく、油を注いでしまったようだ。
こっちもそれどころじゃないのに、パリのマダムたちは、自分の意見をどんどんアップしていく。ま、こうやって憂さ晴らしをしているのである。

退屈日記「再ロックダウンでもうダメ、離婚を考える主婦たちの本音トーク炸裂」



このママ友のチャットのことは何度も書いているので、補足の必要はないかもしれないけれど、ぼくの友人のマダムたちは映画セックス&シティの主人公たちのようなかっこいいマダム軍団じゃない。
非常にあか抜けない、びっくりするくらい衣服とかに気を付けない普通のお母さんたちで、ぼくは一度、全員に、もう少し服装とか化粧とかちゃんとやっても誰も文句言わないと思うけど、と提言したことがある。
或る意味、ちょっと珍しいタイプのフランスマダムたち、と言える。しかも、ぼくに輪をかけてやかましい。それは間違いない・・・。
なので、50歩譲って、外で働いているご主人たちが浮気をしている可能性もあるだろうな、と前から思っていた。
というのもフランスの男たちは、口説くことが挨拶。
誰にでも彼にでも、可愛い、という。警察官が歩いてる女性を口説いてるのを聞いたこともある。
男性は口説くことを生き甲斐にじる人が多いのは事実だし、女性は口説かれて育ってきたから、口説かれなくなった時の怒りも半端ない。
なので、どっちの肩を持つつもりもない。
男性に走ってるご主人が求めているものは奥さんにない安らぎかもしれない。
フランス人はどのような環境でも右に倣えはしない人たちで、唯我独尊、独自の道を歩んでいく。
コロナであろうと自分の人生をルールやレールに嵌めたがらない。
イギリスやイタリアやドイツでマスク着用反対、ロックダウン反対のデモが起きてるが、フランスでは今のところ起きてない。
なぜなら、マスクが嫌ならしなけりゃいいじゃんって、だけ。
みんなが右なら、ぼくは左、の人ばかり。笑。
(ただ、人権に関してだけは物凄い勢いで団結する。それも結局、自分の人権を守るため)
現在ロックダウン中だけど、ぼくの知り合いの家具屋や本屋は堂々と店を開けている。
客を中には招き入れないけど、彼らが歩道まで出て、世間話をしながら、上手に商品を売ってる。
生きることに関しては我が道を行く人たちなのでぼくのママ友たちこそ、実は、ちょっと古い体質なのかもしれない。
クレール「じゃあ、ヒトナリ、あなたに聞くけど。離婚はどう思うのよ?」
ぼく「今は感情に流されず、やめた方がいい。収束してから、もう一度考えてみましょう」
レイラ「じゃあ、うちの夫の男性の恋人については?」
ぼく「日本のポップスにいい曲があります。・・・最後は愛が勝つ」

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