JINSEI STORIES
滞仏日記「ボンジュール・パリごはんの撮影を邪魔するサンシーにお手上げ」 Posted on 2022/04/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は再開したBS「ボンジュール・パリごはん」の料理撮影パートを半日がかりでやってのけたのだった。
息子は出かけておらず、三四郎の相手をする人間がいない。(息子は家にいてもあんまり三四郎の相手をしてくれないのだけれど・・・)
「タイトルがパリごはんなので、キッチンのシーンがとっても大事です」と制作会社のLさんに毎回釘を刺されるのだけど、言うのは簡単だが、・・・結構手間暇かかるので、ここは時間がある時に撮り貯めをしておく必要がある。
24日の地球カレッジの準備で週明けは時間がとれそうもないし、その前日は息子の受験だから、撮るなら今だ、ということになり、季節感満載の「白アスパラのオランデーズソースがけ」と「イチゴのデザート」の二品を作ることになったのはいいが、三四郎が「パパしゃん、あそぼーよ」とうるさくて、いやはや、集中できなかったァ・・・。笑。
別に吠えても「ふんふん」しても番組的にはOKなんだろうけど、普段、吠えない子がやたら吠えるので、気が散って、料理に集中できないのであーる。
綺麗に片づけているから、三四郎がキッチンに入ったってとりあえずは大丈夫なのだけれど、むやみに入室させると、それが癖になり、あとあと面倒になるのが見えているので、撮影中は、三四郎を自分の部屋に閉じ込めることになった。
それでも、犬のなき声はよく響く。あの小さな身体のどこからあんな声が出るのかと思うほどの凄まじさである。
気が散り、大事なところで順番を間違えてしまい、何度か中断をすることになった・・・。
「誰かいるの? 誰もオランデーズソース」というギャグを言う予定だったが、「ぼくがオランデー」と言い間違えた、とんまな父ちゃんなのであった。笑えない・・・。
三四郎が吠えるたびに撮影をやり直していたので、マジ、めっちゃ疲れたわい。
でも、「うちには子犬がいるんだから、しょうがないじゃん」と開き直って、途中から気にしないよう心掛けたのだけど、しかしであーる、全部の回で「わんわん」吠えられると、番組的にはどうなんだろう?
彼が吠えている声を全部カットすることも今の技術なら可能なのだろうけれど・・・。
※ カメラが載っているのは、三四郎のおしっこシートの箱。あまぞーんさんが運んでくれた箱、・・・。笑。
それにしても番組を御覧になった皆さんなら、ご理解頂けるとは思うが、ほぼ自撮り番組なので、キッチンの料理シーンは実に難関なのである。
御覧のように、三四郎のおしっこシートの箱がちょうどいい高さだったので、それを壁際に置いて、その上にカメラを載せ、手元はiphoneを自撮り棒に取り付け、同時撮影という、・・・毎回の荒業。
すでにシリーズ四回目なので、もう慣れたけれど、これでも、一応、いきなり本番というわけにもいかないので、最低一度は前もっての練習もあるし、その都度、手順や流れを確認したりしているし、もちろん買い物にも行ってるので、本当に大変なのである。
普通だったら、撮影チーム、制作会社の人、マネージャー、アシスタント、ケータリングさん、お手伝いさん、助手さん、付き人さん、ヘアメイクさん、監督さんとかがいるのだけど、だーれもいない。三四郎以外・・・。
テストも自分でやり、アングルも自分で決めて、
「じゃあ、回します。シーロンス(お静かに)、よーい、スタート(ここで手をポンと叩く、映画方式)!!!!」
と笑っちゃうような一人舞台の繰り返し・・・。おほほ。
時々、三四郎が近くまでやって来て、わん、とか合いの手を入れてくる。情けない・・・。
マネージメントのタイタンのOさん、日記は読んでいるみたいだけれど、このようなコロナと戦争の織り成す世界じゃ、なかなか現場に来ることもできない、笑。Lさんも監督も誰も来ることが出来ないのであーる。
なのに、Lさんは身勝手な(冗談です、崇高な)企画書を書いて、「父ちゃん、大学生になった息子と別れて暮らすことになり、ついに、新しい家を買う」とかシナリオに書いてるし、あれ、ちょっと違ったかな。( ^ω^)・・・。買えるかい!!!!
※ この涙ぐましい努力、買ってください、ガムテープでスマホが倒れないようにしてるんでーす。
で、毎回、5,6品は料理を作るのだから、皆さん、どんなに撮影が大変か、想像してみてください。
でもね、「母さんが本当に楽しみにしているんだよ」と弟に言われたのは、さすがに胸を抉られた父ちゃんなのであった。
外国暮らしのぼくに出来る、現時点での最大限の親孝行がこれであるならば、テレビの前の86歳の母さんに向けて番組を作るくらいの気持ちであっても、視聴者の皆さんは許してくださるのじゃないだろうか、・・・。
ということで、なんとか今日は、白アスパラとイチゴのデザートを撮り切った父ちゃん、62歳であった。
もっとも、最後の試食の撮影時、食堂が三四郎の部屋の隣なので、柵の向こうに三四郎が張り付き、「パパしゃー-ん、そこにいたんだ、寂しかったよー、あそんでよー、傍に居てよー」とかなり吠えられてしまった。
なので、そこはご容赦頂きたい。三四郎の声出演あり、ということで・・・。(結構、切なく泣きわめいております)
撮影終了後、相棒の三四郎と自撮り2ショットに挑んだのだけど、ぼくを待ち続けていたこの子があまりにも可愛い過ぎて、涙が出そうになった。
すまんね、あとちょっとだからね、辛抱だよ。
ぼくがこの春ごはんのために、撮影したいな、と思っている料理はまだ検討中だけれど、やっぱり、季節感のあるフランスの旬の食材を使ったものになると思う。
今回も茹であがった白アスパラは、もうソースなんていらないほどに香り豊かで素晴らしかったし、イチゴに至ってはこの世のものとは思えないくらいにくらくらする瑞々しさと芳香であった。
どちらも、料理をするのが勿体ないほどのおいしさだったけれど、それをさらに生かすような料理を工夫して、最後まで手を抜かないように頑張る所存であーる。
前置きが長くなったが、お楽しみに!!!
あ、19日の「冬ごはん」の再放送、見てね~。
つづく。
ということで、今日も日記を読んでくださって、ありがとう。
NHK「冬ごはん」の再放送ですが、
NHKBSプレミアム 「ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん」
【再放送日時】 2022/4/19 (火) 14:44~15:43