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退屈日記「息子に、自分を社会に届けるための、履歴書の書き方を教えた父ちゃん。生き抜くのじゃあああ」 Posted on 2023/12/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ずいぶんと遅れて、約束の時間よりも数時間遅れでやってきた、息子くんであった。クリスマス・イブに。
息子が三四郎と遊んでいるあいだ、父ちゃんは料理を完成させた。
一緒にご飯を食べた。
クリスマス・イブだからこそ、じっくり話せることがあった。
息子は、作った料理をほとんど、残さず、食べてくれた。
おいしい、とか言わないが、残さず、食べきった。めるしー。
「明日の昼の弁当作ってやろうか? いるなら」
「うん」
ということで、夕ご飯を作ってから、今度は、息子の明日の昼の弁当を作った父ちゃんだった。
じゃこと梅のおにぎり弁当である。
甘い卵焼きと、鶏と、たくわん(野本にもらった燻製たくわん)を入れてやった。
それを、クリスマスプレゼントにした、父ちゃんであった。
「これ、メリークリスマス」
「あ、ありがとう」

退屈日記「息子に、自分を社会に届けるための、履歴書の書き方を教えた父ちゃん。生き抜くのじゃあああ」

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中に封筒をいれておいた。好きな服を買うように、ちょっとお金が・・・。笑。
「自分で買いたいものを買えばいい。でも、洋服にしてくれ」
「うん」
「あと、来年から、日本に帰りたくても旅費は出さないから、自分で働いて稼ぐように」
「うん、わかってる。大学が落ち着いてきたから、働きながらお金を稼ごうと思っていて、今、履歴書を書いてる」
「まじか」
書きかけの履歴書を、見せてもらった。
日本の履歴書と同じようなもので、「CV」というらしい。
見せてもらったが、なんにも特技とか、経験とか、趣味さえも、書かれてない。
「なんにも書いてないじゃん。これじゃあ、誰も雇ってくれないよ」
「でも、ウソは書けない」
「音楽やってるじゃん。なんで書かないの?」
「そんなの、意味あるかな?」
「馬鹿者、企業の人は、その人のキャラクターをこそ知りたい。学歴はみんな学生なんだから、大差がない。その子がどんなキャラクター、個性、特技があるか、そこを知りたいのに、君の履歴書には、出身学校しか書かれてない。そういう人を君が社長さんだったら、雇いたいかい?」
しーん。
そこから、どうやって、人に雇われるような興味深い履歴書が作れるか、の議論となった。マジで、真剣な親子の会話であーる。
「特技はなんだ?」
「なんだろう?」
「フランスの企業は君に何を求めると思うのか?」
「うーん、日本語がしゃべれる。そこはいつも褒められる」
「それをもっともっと書けばいいじゃん」
「でも、そんなの自慢でしかないし」
「馬鹿者、自分を売ることができない人間は誰も採用しない」
「音楽をやっているけれど、趣味だし」
「コンサートのチケット、売り切れるじゃないか」
「うん、来月のライブも一分で売り切れた」
「一分、ってすごくないか」
「でも、企業には関係ない。それにプロモーターがすごいんだもの」
「馬鹿者め。それは、関係ない。逆に、売り切れた、というの、絶対、ひっかかる自慢ポイントだよ。だいたい、関係ないかどうか、それを決めるのは企業側だから、もっともっと特技を書けばいいじゃん。写真も大事だ、かっこつけていけ。ああ、お前、パパの映画の音楽やったじゃないか」
「あ、中洲のこども」
「それ、映画音楽の監督ということだからね、履歴書に書け」
「え、マジ。えええ」
「書けよ、ウソじゃないじゃん」
ぼくは印刷されたシナリオをもってきて、息子の名前のところを指さした。
「必要なら、エンドロールのスクショもある」
「ああ、ま、ウソじゃないけれど。それこそ、パパの力だから」
「馬鹿者、そんなに奥ゆかしいこと言っていて、勝てると思ってるの? 売り込め、もっともっと、自分を伝えないと、この国で生きていけないぞ」
「そうかな・・・」

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「馬鹿者め、そんなことで、パパが死んだら、どうやってこの国で一人で生きていくんだ。自分をもっとアピールして、認めてくれる人を探さないと。必要なのは味方だ。あ、お前、高校時代にバレーボールでパリ市の大会で、金メダル、とったじゃないか」
「ああ、ほんとだ」
「なんで、それ書かない。馬鹿者め」
「そうだね。書いていいのかな」
「企業は体力のある若者を雇いたい。金メダルなんだから、書け」
「うん」
「英語は?」
「ちょっと」
「じゃあ、書いとけ。ペラペラです、と書け」
「ペラペラじゃないもの」
「いいんだよ、英語でよく歌ってるじゃないか」
「でも、ネイティブじゃないし」
「パパを見習えよ。パパなんか、仏語ぜんぜんダメだけれど、みんなにペラペラって言ってると、みんな仏語の達人だと思い込んでいる。あとは、笑っとけばいい」
「そこまでずうずうしくなれないよ」
「馬鹿者め、そんなことでフランスで生きていけるのか? ここは、フランスだぞ。フランス人を相手に生きていくなら、そのくらいずうずうしくないと生き抜けない。パパを見習え、わかるか?」
「・・・」
「ほかに、特技はないのか?」
「なんだろう。料理はできる。いい友達がいる。学校を休んだことがない」
「うん。それもいい。とにかく、履歴書を読んだ人が、この子は、ユニークで、ぜひ、うちで働いてほしい、と思うようなものを書け。興味をもってもらうことが大事だ。経験のある人間を雇いたいんだ。それが人生というものだ。それは嘘じゃない。自分をちゃんと相手に届けることができてから、人間は成長をする。最初から成長をしている人なんか、いない。まず、自分を売り込め。日本語で、有言実行というんだ。覚えておけ」
「ゆうげんじっこう」
「自分はやれる、と言い切って、実際に、実行する人間のことだ。そのくらい、ずうずうしくならないと、今の時代は、乗り越えていけない。息子よ」
「うん」
「よし、今から一緒に履歴書を書こう! パパがチェックしてやる」

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※ さんちゃんにもクリスマスプレゼント。息子と、三四郎と、父ちゃん、仲良し家族です。笑。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、食後、ぼくと息子は履歴書を一緒に書いたのでした。自分を相手に届けることができなければ、社会では発見されない、ということをぼくは息子に教えたかったのです。はい、これは大事なことです。大事な話し合いができました。まる。
はい、来年、2月28日から父ちゃんの初個展が、新宿、伊勢丹デパート、伊勢丹アートギャラリーにて、開催!!! 履歴書に書いておきます!!!

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