JINSEI STORIES
滞仏日記「フランスにもいる過保護過ぎる親」 Posted on 2019/05/14 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、フランスにも過保護なお母さんがいる。コンスタンタンのお母さんのシルヴィーもその中の一人だ。小学校まで同じクラスだったが、中学から別の学校にコンスタンタンは移った。コンスタンタンは友達が少ない。息子曰く、だからお母さんが必死なんだよね、とのこと。「でもね、パパ、それじゃ、コンスタンタンは大人になれない。彼はもう15才なんだから。親からは離れなきゃ」なるほど。
シルヴィーは今回、長文のSMSを送りつけてきた。6月27日と28日にフランスでは全国共通卒業試験、ブルベがある。これを通過しないと中学を卒業できない。それはともかく、シルヴィーはコンスタンタンの知り合いの子供たちの親に一斉にメールを送りつけ、ブルべに向けてみんなで合同の勉強会を開こうと訴えた。学校が違えば問題の傾向も違うので刺激になるはず、と書き添えられてあった。それはすごくいいことかもしれない。でも、試験前日の午前中にリラックスを兼ねてみんなでレーザーゲームをやらせてはどうか、とのもう一つの提案までくっついていた。しばらくほっといたら、「全員のスケジュールがあうように私はエクセルで管理するので、大至急返事が欲しい」とせかされた。一応、息子に確認したところ、「パパ、ごめん。勉強は一人でやらないと頭に入らないし、試験前日の朝にレーザーゲームやったらリラックスどころか、落第するから断ってね」と当然のようなことを言われた。それで、僕は、一応傷つけないように丁寧にお断りを入れたのだ。「OK」と簡潔な返事が戻って来た。
過保護というのは僕にもきっとあるだろう。どこまで親が子供のことを心配してあげればいいのか、という線引きは確かに難しい。しかし、シルヴィーはちょっとやり過ぎだと思う。このようなSMSが毎月送りつけられてくるのだから・・・。一方、過保護の反対の親御さんもいる。イヴァン君の親御さんは彼を(いい意味で)ほったらかしの傾向にある。最近、息子に夜遊びを教えたのもこの子だ。息子のクラスメイトのほとんどはYouTubeやゲームばかり、オタクの傾向が強い。しかし、イヴァンはパソコンを勉強以外で使わない。彼は屋外派なのだ。自転車に乗るのが好きで、息子と二人でパリ中を走り回る。オタクな子供ばかりなこの時代、イヴァンはかなりの野生児で、息子にスイスまで自転車で行こうと提案をしたほど・・・。そこまでの勇気のない息子は断ったそうだが、イヴァンの影響は計り知れない。僕は時々、これはダメ、これはしちゃいけません、と危険なことについて親として忠告をし過ぎる傾向にある。しかし、イヴァンの親は一切しない。昨年末のスタージュ先を決めないとならない時にも全く手を貸さなかった。僕などは心配だから引受先の企業を探す手伝いをしてしまった。本当は親が子に手を貸しちゃいけないという基本のルールがある。でも、それを守る親などはいない。しかし、イヴァンの親は基本通り、一切手を貸さなかったので、結局彼は自力でスタージュ先を探し回ることになった。これが、学校中で話題になった。近所のカフェやレストランに交渉に行き、彼はことごとく断られたのだ。見かねた学校側が結局、イヴァンをスタージュさせることになる。それでも、それこそが教育だとイヴァンのご両親は胸を張った。ほったらかしという言葉は適切ではないかもしれないが、距離を持って見つめているという感じだ。見習わないとならない面もある。フランスと言ってもいろいろな親がいる。世界中、どこにでも過保護な親御さんはいるだろう。確かに心配だが、手を貸すことで、その子の未来をダメにさせてしまうこともある。親はきちんと考えないとならない。