欧州最新情報
パリ最新情報「フランスの海底で眠らせたワイン、地上とは異なる味に。一体なぜ?どんな方法で?」 Posted on 2023/02/08 Design Stories
「海底に沈んだ遥か昔の沈没船から、ヴィンテージ・ワインが見つかった。そしてその状態は“ほぼ完璧”と言えるものだった…」
と、ロマンたっぷりなニュースが報じられたことがある。
実はフランスで近年、この保存方法がにわかに注目を集めているというのだ。
先月1月には、南仏ピレネー・オリエンタル(スペインとの国境地)で約500本の赤ワインが地中海に沈められた。
しかも、牡蠣養殖業者の完全協力の下で、だという。
仏紙ル・パリジャンの報道によれば、これらのボトルはすべて、水深4mの海中で6か月間保管され、今後「美しい物語」を刻むことになる。
そしてそれは、誰にとってもウィン・ウィンの関係でしかない、のだとか。
海に沈める理由とは何か。
どんなメリットがあって、どんな方法が取られているのだろうか?
まず一番大きな理由としては、地元業者によると、「フランスでは年々暑さが増していて、南仏を中心に干ばつが多発しているため、適応する解決策を見つけなければならない」のだそうだ。
通常、ワインはカーヴ(Cave)と呼ばれる地下倉庫で保管される。
湿気もなく一年を通して適温が保たれるカーヴは、古くからワインの貯蔵庫としてフランス全土で活用されていた。
しかし近年のフランスは暑い。2022年の夏は5月ごろから気温の上がり方が激しかった。
当然カーヴにも影響が出ており、特に南仏では地上で40度を超えた日が相次いだほか、10年後には50度にも達するだろうと言われている。
今回は水深4mの海に沈められたというが、これは冬季のため、比較的浅いところでもOKだったということだ。
ただ今後もし夏場に沈めたい場合は、水深のさらに深いところを探さなければならない。
では何がウィン・ウィンの関係を構築しているのか。
これは、「牡蠣養殖業者のデッドスペースを有効活用できる」ためである。
例えば牡蠣の養殖施設では、アンカーと呼ばれる、養殖棚が流されないようにしっかりと海底で固定する“大型の錘”を使用している。
しかし実は、アンカーが埋め込まれる半径15mくらいは“漁も養殖も出来ないデッドスペースになっている”ということだ。
そこで、ワインメーカーと牡蠣養殖業者のコラボが始まった。
養殖業者が管理しているためボトルが流される心配もなく、漁の邪魔にもならない。
また数百本のボトルが置かれることによってアンカー自体も安定する。
ということでワインの海洋熟成は、業者が管理する牡蠣養殖施設と相性がとても良いのだという。
※大西洋沿岸サン・マロでも昨年にワインの海洋熟成が行われた
さて気になるお味はどうなのか。
「光が届かない場所、一定の水圧と温度も熟成度に関係する」と、地元ワイン業者は述べている。
つまりワインを冷暗所に置き、すべての鮮度を一定に保つことで、より肉付きがよく、より果実味があり、より表情豊かに変化させることが可能だというのだ。
ただこれは水深、海域、期間によっても大きな差が出る。
ワインの味を構成する要素にはさまざまなものがあり、例えば、「温度」「湿度」「振動・音」「光」「匂い」などがその要素として挙げられる。
海洋熟成の場合、海域によってワインの風味が変わってくるという。
というのは、地中海・大西洋では波動の周波数、振動などが異なるため、同じワインでも味が変わってくるというものだ。
もちろん期間の短さ・長さも大いに関係する。
そのため研究が進めば、どのワインがどの海域に合うか? などといった新しい価値観が将来的に生まれるのかもしれない。
フランスの地中海、大西洋沿岸で始まったワインの海洋熟成。
2021年にはサヴォア地方のティーニュ湖に、1000本のワインが1年間も浸けられたことがある。
※湖のワインは酸味が少なく仕上がり、口当たりが非常にまろやかになったという。
さて今回沈められた南仏のワインは6月に引き揚げられ、同月25日には地元市役所と観光局が主催する「海のボトル」パーティーが開催されるということだ。(オ)