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パリ最新情報「ワインに関税200%⁈トランプ氏の発言にフランス市場はどう反応?」 Posted on 2025/03/16 Design Stories
「米国は、フランスやその他のEU諸国から輸入されるワイン、シャンパン、蒸留酒に関税200%を課すだろう」
3月13日、トランプ大統領が自身のSNSでこう発信すると、フランスのワイン業界に衝撃が走った。フランスメディアもこの発言を大々的に報じており、ワイン生産者からは「こんなに関税をかけられたら、アメリカ市場を完全に失う」と嘆く声が上がっている。
この措置は、EUが米国産ウイスキーに50%の関税を示唆したことへの報復とみられる。ただ、そもそもの発端は、アメリカが「鉄鋼とアルミニウムに25%の関税」を発動したことであった。
さらにトランプ大統領は、EUを「世界でもっとも敵対的で乱用的な税関当局のひとつ」と表現。一段と激化する米欧間の貿易戦争に、アルコール関係者も疲れをにじませている。
フランスとアメリカの「報復関税」問題は、今に始まったことではなかった。きっかけは2019年、フランス政府がGoogle、Amazon、Facebook、Appleといった大手IT企業に対し、売上の3%を課税する「デジタルサービス税」を導入したこと。これに激怒したトランプ氏は、「ならばフランス産ワインやチーズ、高級バッグに関税をかける」と対抗。2020年には、実際にフランス産ワインに25%の追加関税が適用された。バイデン政権下で一時停止の措置が取られたものの、今回の200%関税が発動すれば、フランスのワイン業界への打撃は計り知れない。
というのも、アメリカはフランスワイン最大の輸出国。アメリカ向けの輸出は全体の22%(約36億ユーロ)も占めている。関税が200%に引き上げられれば、アメリカでの販売価格は従来の3倍以上となり、市場での競争力を完全に失う可能性が高い。
フランスのワイン農家の反応は、当然ながら悲観的だ。たとえば、仏中部サンセール地方のワイン農家は年間およそ180万本を生産し、そのうち27万本をアメリカに向けて輸出している。ここで生産されるワインはフランスでは11ユーロ(約1800円)で販売されているが、ニューヨークのワインショップでは37ドル前後(約5500円)の値がつくそうだ。しかし、200%の関税が適用されれば、関税のほかに輸送費、手数料、小売店の利益分などがプラスされ、価格はさらに跳ね上がってしまう。もはやアメリカ市場では、手が届かない高級品になってしまうのかもしれない。
フランスのニュースで映し出されたワイン農家たちの表情は、「200%の関税では、アメリカではもう一本も売れなくなるだろう。25%の関税でも売上が落ちたのに」と、かなり悲痛な様子だった。
ただ、今のところアメリカから正式な注文キャンセルの通知は届いていないという。一方ではすでに動き出したワイン業者もいて、彼らは他のEU諸国やタイ、ベトナム、韓国など、アメリカ以外の市場開拓に乗り出しているそうだ。
フランス政府の反応はというと、「われわれは脅しには屈しない」とかなり強気な様子。サン=マルタン外務貿易大臣も、トランプ大統領を非難しながら、「フランスは欧州委員会およびパートナー諸国とともに、報復する決意を固めている」と述べている。
とはいえ、ワイン関係者にとっては「またか」という思いも強い。フランスのワイン業界はこれまでも、25%の関税やEUのラベル規制など、さまざまな影響を受けてきた。追い打ちをかけるような200%の関税措置に、「ワインを政治の道具にするな」という声が上がるのも自然なことだろう。
また、200%の関税が発動すれば、輸入業者や販売業者など多くの企業が消滅する可能性が高いと言われている。13日のトランプ大統領の発言だけで、LVMHグループの株価が下落したという報道もあった。※LVMHグループにはワイン・スピリッツ部門がある。
こうして広がる米欧間の貿易戦争に、フランスのアルコール関係者も疲労の色を隠せない。最近では、「欧州委員会はもう少し現実を見た方が良い」とする国民からの批判もある。いずれにせよネガティブな意見がほとんどであるこの関税問題、ほかの国際問題に波及しないよう願うばかりだ。(大)