コロナ第8波に突入したフランスでは、すべての指標が増加傾向にある。
10月10日（月）の発表によると、直近7日間では感染者数が平均55,954件となり、人口10万人あたりでは566件の陽性例（3週間で2倍）、発症率24%（9月初旬は15.3%）、重症患者は合計で882人（2週間で26%増）となっている。
また死亡者数も増えており、10月の第一週では293人が報告された。
これは前週の220人を大きく上回っている。

フランスにおける第8波の特徴は、第7波で流行したオミクロンBA.5亜種が全体の91%を占めていることである。
パリのサン・ルイ病院の感染症専門医であるアンヌ＝クロード・クレミュー教授は「新しい変異株が現れなければ、健康への影響は中程度と考えられる」と述べているが、一方でBA.2.75株ケンタウルスがフランス国内で68件報告されており、警戒すべき状況であることに変わりはない。
 

 
ただ懸念されているのは、フランスにおける「感染対策の緩み」である。
フランス政府は2022年5月16日より公共交通機関におけるマスク着用義務を撤廃しており、続いて8月1日からは医療施設でのマスク着用義務、衛生パスポートおよび入国規制を廃止した。（ただし各医療機関、薬局、高齢者施設などにおいてはマスク着用が引き続き「強く推奨」され、各責任者の判断で義務化の導入が可能。6歳以上の全員が対象となる）
 

 
9月以降、マスクを着用するフランス人の割合は大幅に減少し、パンデミックが始まって以来最低の水準となっている。
Santé publique France（フランス衛生局）が先週末に発表した調査によれば、密閉された公共の場でマスクを「着けない」という人は全体の76％に及んでおり（5月は58％）、職場では70％（5月は57％）と、過半数のフランス人が「もう着けない」「着ける頻度が減った」と回答している。
 

 
その理由は、フランスにおけるマスクが元来「病気を連想させる負のイメージ」であったことに基づいている。
加えて、過剰な束縛感への疲れ、ワクチンを皆が打っているという安心感、今夏の猛暑、ウイルスがありふれたものへとなった、などの意見があり、フランス人のマスクへの抵抗感が再び浮き彫りになった形となった。

しかし冬を目前に控えたフランスでは、各専門家とメディアの間でマスク着用問題が再燃している。
元保健局長で疫学者のウィリアム・ダブ氏は、「脆弱な人、および近親者だけが身を守ればいいというのは、疫学的にナンセンスです。マスクは100％効果があるわけではなく、手洗い・消毒・換気・ソーシャルディスタンスといった複合的な対策を組み合わせる必要があります。自分が無症状感染者になった場合、皆にウイルスを感染させる可能性があることを我々は考えなければならない」とし、マスク着用の重要性を仏ラジオ番組FranceInfoで訴えた。
一方で、「常時着用する必要はない」とする専門家もいる。
モンペリエ大学のミルチャ・ソフォネア講師（感染症の疫学と進化論専門）は、仏TVに出演し「例えば混雑した満員電車の中ではマスクは必要だが、人気のない屋外でたったひとり身に着けるのは意味がない」と言及している。
いずれにしろ密閉された空間ではマスク着用が望ましいとする専門家がほとんどなのだが、一部の心理学者は長期間の着用による「無表情症候群」を危惧している。
 

 
「無表情症候群」とはスペインの心理学者ジョルジナ・デル・バジェ氏によって提唱されたもので、マスクの長期間着用がもたらす問題「syndrome du visage vide」（空の顔＝無表情症候群）としてフランスでも研究されている。
これは小学校高学年〜高校生のティーンエイジャーで多く発生しているといい、マスクで顔を覆うことによってコンプレックスを隠せるため、一部ではマスクを外せなくなっているという現象を指している。
しかしこうした連続着用は表情筋が弱まり将来的な外見に影響を与えるほか、コミュニケーション能力の低下やパフォーマンスの低下が発生するという。
そのため仏臨床心理学者のアリーヌ・ナティヴェル・イド・ハムー氏は、「無理に外す必要はないが、屋外など不安を感じない場面から徐々に外していくこと」を勧めている。

仏政府は公共交通機関におけるマスク着用義務を「検討中」だとしているが、8月の保健衛生非常事態の終了により、政府はその強制力と即効性を失っている。
今後は国会で審議する必要があるものの未だに賛否が分かれており、マスク着用については「推奨」に留まったままだ。（大）