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パリ最新情報「セーヌ川に何が?次々と迷い込む海洋生物」 Posted on 2022/08/24 Design Stories
2022年に入り、セーヌ川に海洋生物が次々と迷い込むようになった。
5月にはシャチが、8月にはシロイルカが、セーヌ河口から随分と進んだところで立ち往生し、その後いずれも命を落としてしまっている。
8月のシロイルカ救出作業については、フランスでも大きな注目を集めた。
ところが17日には今度、セーヌ=マリティーム県・ルーアン近郊のセーヌ川でアザラシが新たに目撃されたというのだ。
県の野生動物保護センターCHENEによれば、アザラシは一匹で彷徨っているが、衰弱した様子もなく、今のところ危険性はないという。
実のところ、ノルマンディー地方のセーヌ河口付近にはアザラシのコロニーがいくつかあって、それぞれ10〜20の個体が生息している。
モンサンミッシェル湾、ヴェス湾などで確認されており、特に生後1年に満たない子アザラシが回遊してセーヌ川を逆流することがあるそうだ。
保護センターは現在、このアザラシが人間の手を借りずに仲間を見つけることができるよう、注意深く観察しているという。
一方で、Voies Navigables de France(フランス水路局)は、「アザラシに近づいたり餌付けするようなことがあれば、攻撃的になる可能性があるだけでなくその習性にも影響を与えてしまう」とし、周辺住民に静観するよう公式声明を発表した。
今回新しく迷い込んだアザラシに関しては、先の海洋生物に比べ緊迫した状況ではないようだ。
ただフランスで問題視されているのは、シャチやシロイルカといった大型の海洋生物の遭難が多発していることである。
彼らは淡水で長く生き延びることはできない。
8月上旬にセーヌ川に迷い込んだシロイルカの例を挙げると、本来は1200キロほどあるはずの体重が約800キロまで落ちていた。
NGO団体が餌を上げようとしても受け付けず、救出までに著しい体力の低下が見られたとのことだ。
結果、海に放しても助からないと判断されたことから、このシロイルカは専門家らによって安楽死の処置がなされた。
今、フランスで起こっているのは「救出作業をもっと迅速にしなければならない」という議論だ。
実際、シロイルカの発見から救出作業までは1週間強の時間を要した。それには人員動員と輸送コストの両面で問題があったという。
最終的には消防士、憲兵を含む約60人のスタッフが確保されたが、救出作戦を遂行するためのはしけ(平底の船)を借りるのに2万8000ユーロ(約380万円)、クレーン輸送に1万ユーロ(約136万円)を用意する必要があった。
ところが国はこの予算をカバーできない、とした。
そこでNGO団体が立ち上げたのは「helloasso.com」という名の3万ユーロ(約400万円)のファンド。8月9日の立ち上げ初日に目標金額は達成され、その後すぐに救出作戦が行われた。
つまり、今回の救出は民間の協力によって実現したわけだが、シロイルカが死亡したことにより「フランスはこのような事態にもっと備えなければならない」と各メディアが政府を糾弾するようになってしまった。
海洋生物がセーヌ川に迷い込むようになった経緯については、今も専門家の間で議論がなされている。
その理由はまだ判明していないものの、有力なのは地球温暖化により北極海の氷が減って、船の航行や漁業活動が増え、聴力に敏感なシロイルカが住みにくくなっているという説だ。
もしそうであれば、こういった事件はこれから世界各地で起こり得る。NGO団体は今回の件を踏まえ、「フランスで前例のない資金提供に感謝している。動員されたすべての組織と人材から、我々はすでに多くの教訓を得た」としている。(大)