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欧州最新情報「ロシアのウクライナ侵攻、背景と危惧」 Posted on 2022/02/25 Design Stories  

「ウクライナとは一体何なのか?州ですらない!ウクライナ領土の一部は中央ヨーロッパで、もう一部、最も重要な部分は我々ロシアが与えたのだ!」
2008年、ウラジーミル・プーチン、ロシア大統領は日刊紙『コメルサント(Kommersant)』のコラムでこう語っていた。それから14年後の2022年、同大統領は、ルガンスクとドネツクの全地域に対する分離独立派の主権を一方的に認めた上で、2月24日(木)、ウクライナ領内での「軍事作戦」を開始した__。
一体どうして、21世紀という時代にこのような侵略戦争が始まってしまったのか? 
そこに潜むロシアとウクライナの軋轢を振り返りながら理解していきたい。

地球カレッジ

・ウクライナ東西での分裂。東部ドンパス地域ではロシア語話者は70%以上
ウクライナの分裂は長年にわたり、しかも複数存在する。ソ連が崩壊し、1991年に独立してから30年以上経った今でも、言語などの強い分断が見られる。2001年国勢調査(これが最新)によると、ロシア語を母語とする人口の割合は東部ドンパス地域にあるルガンスク州で69%、ドネツク州では75%。クリミア半島では76.5%に達する。一方、西部地域はロシア語話者はかなり少ない。西部14の地域でロシア語を第一言語とするのは人口の10%以以下である。(キエフ地方では、25%)

2020年に実施された調査によると、(クリミア半島とドンバス地域以外の)国民61%は家庭でウクライナ語を話すと答え、ロシア語を話すと答えたのは36%。2019年からは、ロシアによるクリミア併合を受けて、公共機関や教育、医療などでウクライナ語を使うことが法律で義務づけられている。

・2004年「オレンジ革命」を巻き起こした大統領選挙
2004年11月、オレンジ色の旗とスカーフを持った何千人ものデモ隊が、何週間もの間、キエフの中心部に集まった。この抗議運動は「オレンジ革命」と呼ばれ、全世界のメディアが取り上げ、話題となった。発端は、親欧米派が、親ロシア派の候補者、ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ首相の大統領選挙当選に対し不正を訴え、抗議し続けたことにある。結局、最高裁判所の裁定により再選挙が行われ、親欧米派のヴィクトル・ユシチェンコ候補が大統領に選出された(再選挙前にユシチェンコ候補が毒(ダイオキシン)を盛られるという事件があり日本でも話題になった)が、このウクライナを東西に二分する大混乱「オレンジ革命」がウクライナを根底から揺さぶっていると言えるだろう。ウクライナは、親ロシア派と親欧米派に分裂している。



・2014年のクリミア半島併合による領土侵攻
2014年、それまでウクライナ領だったクリミア半島がロシアの手に渡った。住民投票で、クリミアの住民は96.6%の賛成票を投じ、ロシアへの帰属を決めた。同時に、親ロシア派武装勢力がウクライナ東部の一部地域を占拠。ハリコフ、オデッサ、ドネツクを中心とする東部・南部でも親ロシア派のデモが行われた。これが、ロシア語圏が多いこの地域の名称をとった「ドンバス戦争」の始まりであった。2014年5月11日、ドネツクとルガンスクで2つの住民投票(ウクライナと西側諸国は認めていない)が行われ、圧勝する形で独立へと導かれた。

・停戦違反の発生と急増
2015年2月、紛争の停戦合意である「ミンスク2合意」協定が締結された。ドンバス地域は、一方をキエフ政府の支配下に残る地域、もう一方を親ロシア派の分離主義者が保持するドネツクとルガンスクの自称共和国と、停戦ラインで分断されてきた。しかし、実際にはこの地域で弾丸や砲弾の音が止むことはなく、内戦は続いた。この8年で、約1万4千人以上の命が奪われている。

紛争状況の監視を担当する欧州安全保障協力機構(OSCE)は、2月22日(火)、ウクライナ東部の前線で実施されている停戦に対する違反行為を1927件記録。これは、今年の最高記録となった。2月初旬、OSCE監視団は停戦違反を1日あたり約200件記録している。



・2021年10月以降、国境に集結したロシア兵
ロシアは2021年10月末からロシアとウクライナの国境沿いを囲む形でじわじわと軍を配備している。アメリカによるとその数は”15万人以上 “とさえ言われていたが、2022年2月に入りその数はさらに急増した。そして2月23日夜、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアがウクライナの国境に「約20万人の兵士」を集結させたと発表。これを受けて、NATO(北大西洋同盟)諸国は東欧に軍を配置し、艦船や戦闘機を派遣して防衛力を強化していた。

そして、2月24日の朝、プーチン大統領の命令で、ロシア軍が行動を開始。ウクライナの国境警備隊は、領内のいくつかの地点で装甲車を含むロシア軍車両の進入を報告した。ロシアの空爆は首都キエフをはじめ、クリミア半島の境界などいくつかの都市の軍事施設を標的にしている。25日0時現在、40人以上のウクライナ兵の死亡、市民からも10人ほどの死傷者が確認され、ロシア側にも50人ほどの死者がでているという。

このロシアのウクライナ侵攻に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアの挑発には乗らないが、自衛の用意はある」という強気の姿勢。全世界はロシア、プーチン大統領を強く非難している。

イギリスのジョンソン首相は、「ロシアのウクライナ侵攻に愕然としつつ、この衝撃は東アジアや中国と台湾問題にも影響を及ぼす」と発言。中国の動きも注目される。
この最悪のシナリオの始まりに、ネット上では「第三次世界大戦」などの恐ろしいワードが飛び交う。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のシャビア・マントゥー報道官は、「約10万人がすでに自宅を離れ、国内避難民となっている可能性があり、約数千人が国境を越えていると考えられる」と述べた。
パリに住むウクライナ人の友人に連絡してみると、現在キエフからお母さんがバスでパリに向かっており、お父さんはキエフに残ることを決めたという。
力づくで暴走しはじめたプーチン大統領の本当の目的は一体何なのか、誰かが止めることはできるのだろうか・・・。

欧州最新情報「ロシアのウクライナ侵攻、背景と危惧」

<24日、パリ市内に集うウクライナを支援するパリジャンたち>
 

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