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パリ最新情報「お財布からレシートが消える。販売店でのレシートの印刷廃止」 Posted on 2022/12/25 Design Stories  

 
フランスでは毎年300億枚のレシートが印刷されている。
数が多すぎていまいちピンと来ないが、300億枚のレシートのために、2500万本の木が自然から消えていると言えばその量が膨大だと理解できるだろう。
フランス政府は、2023年4月からそのレシートの自動的な印刷を廃止すると伝えた。
目的は、廃棄物の削減、資源やエネルギーの無駄の縮小と、印字に使用されているインクに含まれる「健康に害のある化学物質」を避けるためである。
例外として、紙のレシートを発行することがこれまで通り義務付けられているものもある。
まず、返品やアフターサービスを容易にするために、家電製品、コンピュータ、ゲームやおもちゃ、スポーツ用品や家具などのいわゆる「耐久消費財」がそれに当たる。
そして、実際に返品又はキャンセルされた取引やクレジット払いの対象となった取引に関するレシートも、引き続き印刷される。
 

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では、レシートがなくなったら、どうやって買った物を確認すれば良いのか? 主な措置としては、メールやアプリで購入したものを確認する「電子レシート」システムを普及させること。
レジで会計をすると同時に消費者のメールやSMSに購入履歴が届く仕組みだ。
ただ、会計の度に自分の電話番号やメールアドレスをレジで告げるのは、プライバシーに関わるだけでなくそれに掛かる時間を考えても非効率的だ。
そのため、多くの販売店では、消費者にPC又は携帯のアプリ上で個人情報を含むアカウントを作成してもらい、レジでそのID番号を告げるか、アカウントに紐づけられたお店のポイントカードのバーコードを読み取るという形を取ることになる。
そうなると問題になるのが、個人情報の扱い方だ。
今では販売店の個人アカウントを作ったり、そのお店のアプリをダウンロードすることは珍しくないが、それに対して否定的な人たちも少なからずいる。
そういう人たちに、レシートが欲しいならアカウントを作れというのは少々乱暴な気もする。
 

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一方で、会計時にレジで生成されるQRコードをスマートフォンで読み取ることで簡単に電子レシートを取り込めるシステムを提案している企業もいる。
これなら消費者が電子メールアドレスや電話番号、アプリへの登録をする必要がない。
消費者としては個人情報への懸念や手軽さを考えてもより良い措置に感じるが、販売店がそちらの方法を採用するかどうかは疑問だ。
なぜなら、「電子レシートの措置のため」という大義名分で、合法的に個人情報の取得ができ、顧客の傾向を追跡し、ターゲットを絞った広告を送ることができる絶好の機会とも言えるのだ。
 

パリ最新情報「お財布からレシートが消える。販売店でのレシートの印刷廃止」

 
もちろん、レシートが必要な場合はその都度レジで要求すればもらえる。
請求書の電子化で困る人たち(PCや電子化したレシートを扱うのが難しい年配者など)や、会社の経費で紙の領収書の提出が必要な人たちのために、紙のレシートを完全廃止することはしない。
電子レシートに不安が多い人は、安心して利用できると思えるまでは紙のレシートを発行するようお願いした方が無難かもしれない。
 



 
ちなみにこの制定は、元々2023年1月から施行予定だったものが4月1日に延期となっている。
政府はその理由として「多くのフランス人にとってレシートは、最近ますます重要となっているのインフレ問題への対策という意味でも、購入した商品の価格を確認する重要な手段である」と認めた上で、「4月まで待つことで、適応するための十分な期間を確保することができる」としている。
3ヶ月延ばしたところで上記の懸念点が払拭されるのか? と懐疑的ではあるが、意外にも、2022年初めに実施された世論調査によると、レシートの電子化に賛成する回答者は過半数を超えていたという。
不安は多いが、環境問題は無視できないといったところだろうか。
 

パリ最新情報「お財布からレシートが消える。販売店でのレシートの印刷廃止」

 
慣れてくれば、紙のレシートは無い方が便利かもしれない、確かにメールやSMSよりも、手のひらサイズの紙を紛失することの方が多い。
お財布やバッグの中に紙が溜まることもないし、スマホやPCが目の前にあれば見たい日にちの履歴をすぐに表示させることも可能だ。
ただ、特に店側と消費者とのコミュニケーションという意味では、慣れるまではレジでの混乱は避けられないだろうと容易に想像がつく。
アカウントが上手く機能せず、コールセンターへ質問やクレームが殺到することもあるだろう。

2023年は、フランス国民が「非物質化」と「個人情報」に正面から向き合う年になりそうだ。(ケ)
 

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