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欧州最新情報「ウクライナ大統領、ゼレンスキーとは一体何ものか?」 Posted on 2022/02/27 Design Stories
「事実は小説よりも奇なり」
まさに今、ウクライナ大統領に降りかかっている現実である。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対抗するウクライナの大統領、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は1978年生まれの44歳。キエフ国立経済大学の法学学位を取得し、制作会社を設立。映画や漫画、テレビ番組を制作していた。しかし、2015年、本人主演の政治風刺ドラマ「国民の僕(全24話)」がウクライナ、テレビ史上最大のヒットを巻き起こし、彼に転機が訪れた。ドラマは歴史教師がひょんなことから大統領になり、汚職など国の難題に立ち向かうというストーリーだったが、ドラマの大ヒット後、ドラマのタイトルと同名の政党「国民の僕」を立ち上げ、国民からの期待に応えるかたちで、2019年5月、現実に、ウクライナ第6代大統領に選出されたのである。
⬇️は、ゼレンスキー大統領が演じた「国民の僕」の予告動画
2019年4月当時、ゼレンスキーはペトロ・ポロシェンコとの第2回選挙で73%以上の得票率を獲得し、41歳というウクライナ史上最年少の大統領となった。勝利の際、「私は決してあなた達を失望させない」、「経験はないが、体力と気力は十分に持っている」と血気盛んに国民の前に立った。
ゼレンスキーは就任当初、ロシアとの関係について、「ロシアとしっかり目を合わせて話し合えばいいのだ」「この戦争に終止符を打てる」などと発言。それに対し、ウラジーミル・プーチンは「ただの世間知らず」と強く非難していた。政治専門家からも、「彼には大統領の衣装は大きすぎる」などという意見が多く、決して評価は高くなかった。
しかし、2021年秋以降、ロシア、ウクライナ間の緊張が再び高まり、彼の大統領としての転機が訪れた。プーチンを前に口調も厳しくなったゼレンスキーは、「戦争を仕掛けてくる相手に極めて毅然とした態度で臨みながらも、決して攻撃的ではない」「彼はもはや、就任時と同じ人間ではなく、プーチンという相手が、いかなる妥協も許さない、手強く、強欲で皮肉な相手であることに十分気づいている」「国家元首の貫禄が出てきた」などと、評価され始めたのだ。
ヴォロディミル・ゼレンスキーは、戦争が今にも始まりそうな時でさえ、「どうすればいいのか? それはただ一つ、冷静になることだ」と、絶えず、国民がパニックにならないよう呼びかけてきた。
国際的な知名度も高まり、同世代であるフランスのエマニュエル・マクロン大統領もウクライナ大統領の「冷静さ」を賞賛している。
そんなヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、いま、ロシアと1人で戦っている。
他国に対し、「誰が我々と一緒に戦う準備ができているのか? 誰もいない」「ウクライナにNATO加盟の確約を与える用意があるのは誰だ? 誰もが恐れている」などと発言。また、ロシアの侵攻に対する欧州の対応が「遅い」と批判し、「ウクライナはこの戦争劇に一人取り残される。ウクライナを助けるのにこれだけ時間がかかっていたら、どうやって自国を守るんだ?」などと揶揄している。
また、同大統領はプーチン大統領から受けた非難に応えるべく、ロシア人に対し、ロシア語で約9分にわたるメッセージを送った。ロシア国民に対し「戦争で犠牲になるのは人、戦争を止められるのも人」などと訴えかけた。
わずか3年前まで政治の素人だったヴォロディミル・ゼレンスキーは、ここ数ヶ月、「人気者」だった自分の未熟さを払拭し、プーチンに対抗できる政治家らしい風格を築いている。ウクライナはゼレンスキー大統領とともに冷静にこの至難を乗り越えられるだろうか。全世界の人々はゼレンスキーとウクライナを注視している。(み)