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パリ最新情報「パリの証明写真『フォトマトン』が進化、新しい自撮りのスタイルに。」 Posted on 2023/02/04 Design Stories
味気ない証明写真が現代アートに生まれ変わる? そんな試みが、最近のフランスで流行り始めた。
証明写真といえば、駅構内や役所、ショッピングモールなどに置かれた簡易式ボックスを思い浮かべる。
世界共通のシステムではあるが、フランスでは「フォトマトン(photomaton)」と呼ばれており、その認知度もかなり高いと言えるだろう。
つまりフランス人の誰もが知っている機械であり、誰もが一度はお世話になる機械、なのだ。
フランスではこの証明写真が、数年前から再流行している「ポラロイド写真」のように、新しい自撮りスタイルとして広まりつつある。
普段なら素通りしてしまうほど気にも留めないフォトマトン。
言い換えれば、それくらい日常生活に溶け込んでいるのがフォトマトンだ。
しかしこのフォトマトン、実はかなり歴史が古い。
フランス・グルノーブルに本社を置き、何十年も人知れず独自の進化を遂げてきたというのである。
若者が今どのように自撮りを行っているかご紹介する前に、少しその歴史に触れてみたい。
証明写真のシステムは1920年代にアメリカからやってきた。
写真へのアクセスを民主化する、という名目のもと、パリではまず初めにギャラリー・ラファイエットとのコラボレーションが行われた。
デパートに置かれた写真機の前には、連日のように大群衆ができていたという。
※当時の料金は5フラン、所要時間は8分間。16秒間で6種類のポーズをとることができた。
フランスの投資家がその権利を買い取ると、フォトマトン社が1936年に誕生する。
50年代には最盛期を迎え、1976年には白黒写真からカラー写真に変わった。
さて、フォトマトンがパリの文化シーンに登場するようになったのは、映画『アメリ』の影響が非常に大きい。
映画では主人公アメリが、証明写真機の下から捨てられた写真を掻き集める、というシーンがある。
これはなんと実話で、仏人作家ミシェル・フォルコ氏の実体験に基づくものだった。
フォルコ氏は1980年代初頭、パリのフォトマトン周辺で、破られている大量の同一人物の写真に興味を抱いた。
同氏が周辺を見張っていると、彼がカメラをチェックするメンテナンス技術者であることが後に判明したという。
ジャン・ピエール・ジュネ映画監督はこの実話から着想を得て、映画『アメリ』を制作したのだった。
そんなフォトマトン社が提供するサービスは、現在では証明写真以外にもある。
フォトマトンは数年前から結婚式や誕生日といったイベントにおいて、フォトブースの出張サービスを行っている。
同社によればデジタルではなく、思い出を紙面上に(しかも証明写真という形で)残しておくことを提案したものだという。
また2022年からは、加工が施された証明写真機を国内で300台も増やしている。
※新タイプのフォトマトン
今年1月12日には、証明写真の撮影法が現代アートになって登場している。
これはフォトマトンのサービスではないのだが、仏人アーティストが証明写真を現代アートとして撮影し、リヨンの広場で即席展示会を行ったものである。
このイベントでは好意で参加した一般市民の証明写真が、拡大されポートレートとして広場一面に飾られた。
なおこのアーティストは証明写真を現代アートに見立て、2011年から活動を続けている。
フランスにあるフォトマトンの数は、現在で約8600台。
一時はデジタルの台頭で存続の危機にあったというが、今ではこうしてリバイバルの波に乗り、新たな楽しみ方が広まり始めた。(る)