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パリ最新情報「負の連鎖が繰り返されるフランスのテロ事情」 Posted on 2020/10/22 Design Stories
昨日、私の前を歩いていた若い男性が不意にどこからともなく現れた警察官によって職務質問を受けた。友人と一緒だった私たちはそれを遠巻きから眺めていたが、調べられたリュックの中から大きなナイフが出てきて、驚いた。警官は男を緊急逮捕し連行した。僅か数分の出来事だったが、近くには中学校もある閑静な住宅地、身震いを覚えた。
斬首テロが起こってから、パリ市内を警らする警官が増え、今までにない緊張感に包囲されている。もしかすると、新たなテロの情報を内務省は入手しているのかもしれない。不審な人物を呼び止め強制的に検査する「コントロール」の数が増えている。
中学教師に対する斬首テロ事件を受けて、フランスはパリ郊外のあるモスクの閉鎖を決めたり、過激派に属する外国人231人の強制退去を決めたり、移民に対して厳しい動きを出している。このことへの反発を強める過激派が何をしでかすのか、私たち一市民は戦々恐々としている。
21日19時半、パリのソルボンヌ大学にて、先週テロリストに殺害されたサミュエル・パティ氏の国葬が行われた。
国葬といえば、アンバリッド陵やノートルダム大聖堂などで行われる事がほとんどだが、今回、大統領府は遺族と話し合い、国葬の場に自由、文化、そして教育のシンボルであるソルボンヌ大学を選んだ。
式にはコロナの影響もあり約400人のみが招待されたが、ソルボンヌ周辺にはたくさんの人が集まり、サミュエル・パティ氏を追悼した。
はじめにサミュエル・パティ氏にレジオン・ドヌール(最高勲章)が授与され、その後、U2の「One」が流れる中、棺が運び込まれた。
マクロン大統領は「我々は風刺画をやめることはない」と宣言、棺に向かい、「あなたの名誉のため。フランスは決して光を消すことはありません」と語った。
フランスのメディアでは、教育の場でどのように風刺画が扱われるべきか、表現の自由についての討論が続いている。
9月に2015年の風刺画雑誌シャルリーエブド襲撃事件の犯人の裁判が行われたが、その裁判前日にシャルリーエブドは挑発的な風刺画を掲載していた。
それが引き金となり、9月末、元シャルリーエブド社前(シャルリーエブドは事件後、新住所を明かさず引越ししており、知らなかった犯人が元本社前を襲った)でのテロ事件が起こった。
また今回の犯人も、その9月末のテロ事件を受けて、「神を侮辱する者たちへの仕返し」を企てたとみられている。
負の連鎖は繰り返すのだが、シャルリー・エブド社は「斬首された共和国」と題した最新号を出す予定である。
表紙には郵便局員、看護師、警官、マクロン大統領など5人の斬首された市民の絵が並んでおり、次は誰?と言う見出しがついている。
日本人の私などは負の連鎖が続くことをどうしても想像し不安になるのだが、フランスの国民は表現の自由から目を背ける意思はない。
事件のその後で新たな事実が判明してきたので補足しておく。
10月に入り、SNS上でこの教師と学校を名指しで非難するビデオが拡散されたことから、犯人はこのビデオを流した人物、教師が務める学校の保護者とコンタクトを取り、標的を絞ったと推測されている。
この保護者が殺人計画を知っていたかどうかは捜査中だが、事件当日、本人を特定するために14歳と15歳の中学生が、それぞれ300€、350€と引き換えに教師の情報を渡した事が判明した。
未成年者なので司法監視下で保釈されているが、本来なら懲役20年以上の大罪である。
感染拡大が止まらない上に、テロへの警戒も最大となったフランス。
まさに、踏んだり蹴ったりの2020年である。