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パリ最新情報「フランスから新たに3つの世界遺産が誕生!」 Posted on 2021/07/30 Design Stories  

先日、日本の奄美大島、徳之島、沖縄本島北部と西表島にある森林などが世界自然遺産に登録されたという喜ばしいニュースが駆け巡った。世界で合計33か所の新世界遺産が誕生したことになるが、フランスも時を同じくして新たに3つの世界遺産が加わった。

第44回ユネスコ世界遺産委員会は7月27日、ニース市、ヴィシー市、南西部のコルドゥアン灯台の3つを新たに世界遺産へ登録することを決定。これでフランスの世界遺産の数は合計48件となり、「世界遺産の多い国」第5位となった。(1位はイタリアと中国、日本は12位)

フランスをはじめ、ヨーロッパでは世界遺産、特に文化遺産が多く名を連ねる。これはユネスコ世界遺産委員会が設立された当初からヨーロッパ諸国がいち早く立候補していたこと、自然災害が少ないこと、建築物のほとんどが劣化しにくい石造りでできていることなどが挙げられる。

パリ最新情報「フランスから新たに3つの世界遺産が誕生!」



今年のユネスコ世界遺産委員会は中国福建省で開催された。2020年はコロナ禍で延期となったため、2年分42か所の審議が初のオンライン形式で行われたという。コロナウィルスの水際対策を続ける中国は、同委に参加する各国代表者にも入国後の14日間の隔離を求めたというが、各国から「代表者の14日間の隔離は受け入れられない」「ワクチン接種者は隔離期間を短縮してほしい」などと否定的な言及が相次いだ。中国側はそれでも「防疫の上で必要」との立場を崩さず、異例のオンライン審議となった。

今回新たに加わったフランスの3つの世界遺産は、他の候補地と同様、以前より申請を行っており、それに向けて様々な取り組みを図っていたという。悲願達成となった各所の喜びの声と、後世に伝える価値のある歴史的景観をそれぞれご紹介したい。

まずは南仏ニース市。前回2019年に落選したものの、念願かなって世界遺産の街となった。人口約35万人、フランス第5の都市で、パリに次いで第二の観光都市となっている。
『ville de villégiature d’hiver de la Riviera』(リビエラの冬のリゾートタウン)と呼ばれ、18世紀半ばから世界中、特にロシア貴族とイギリス貴族が避寒地として好んで暮らした街である。そのためニースには文化的影響を受けたさまざまな建造物が残り、ベルエポック(古きよき時代)の空気を今に伝えている。海沿いのプロムナードデザングレ(「イギリス人の遊歩道」と呼ばれる海岸沿いの散歩道)、ロシア正教会、旧市街エリアなどの文化遺産が選出の決め手となった。

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© Ville de Nice

これを受け、ニース市のクリスチャン・エストロジ市長はTwitter上でコメントを発表。「愛するニースの街が世界遺産に登録されたことは私たちにとって歴史的な出来事であり、その影響力は計り知れない」と喜んだ。ニースは世界遺産だけでなく、2028年の欧州文化首都に選出されるべく立候補しており、今後も街の発展が計画されている。

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そしてフランス中央部、『Reine des villes d’eaux』(水の都の女王)と呼ばれるヴィシー市も世界遺産に仲間入りを果たした。ヴィシー市はパリから電車でおよそ3時間。日本では「アヴェンヌ村のアヴェンヌウォーター」が有名であるが、ここもまた温泉水で非常に有名な街と言える。他の温泉保養地と違うところは、フランスで唯一火山性の温泉が湧き出る場所ということだ。

ヴィシー市はナポレオン3世が療養地として選んだ場所で、1861年以降毎年訪れていたという。市はそれによって開発が進んだことで「水の都の女王」と呼ばれるようになった。カルシウム、銅、鉄分、ナトリウム、マンガン等が豊富に含まれた噴泉口は市内で30ヶ所を越え、湯治を目的とした保養施設やホテルも多く立ち並ぶ。ヴィシーの名を冠した基礎化粧品もフランスでは人気を博している。

こうした長い努力と歴史的背景が評価され、ヴィシー市は晴れて世界遺産に登録された。市は今後、さらに多くの観光客やスパの訪問者を誘致する予定だという。29日には地元でコンサートやパーティーも行われ、お祝いムードが漂った。

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最後に、「海のヴェルサイユ」と呼ばれるコルドゥアン灯台。フランス南西部に位置するこの灯台は、16世紀末に建造されたフランス最後の灯台守のいる(有人)灯台である。最後に改築されたのは18世紀半頃で、世界遺産に登録された灯台ではスペインのラコルーニャにあるものに次いで2番目に古い。この文化遺産は、審議10分で満場一致のもと可決されたという。

大西洋に面するジロンド川の河口に面するコルドゥアン灯台は、5年間の準備のうえ立候補。地域組合の会長であるパスカル・ガット氏は「我々は何世紀にもわたって船乗りの運命を見守ってきました。本当に誇りに思います。」とコメントを発表した。ユネスコはコルドゥアン灯台について「航路信号施設の傑作」と称賛を贈っている。

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© David Remazeilles (Gironde Tourisme)



世界遺産は、観光地化が進み保護がしっかり行き届かなくなれば、登録が取り消される可能性もあるという。2021年はリヴァプール(イギリス)とセルース猟獣保護区(タンザニア)の登録抹消が可決された。地元開発が進んでしまったこと、密猟の横行などが理由だそうだ。

文化の多様性や自然の神秘を知ることができるのが世界遺産の魅力であるが、フランスにおいてのそれは、過去の姿をそのまま後世に残そうとする情熱にあふれているところかもしれない。黄金期の姿はもう見えなくとも、風化された姿もまた一興、といったところで、中世の雰囲気を味わえる文化遺産がいくつもある。今回新たに登録された世界遺産も含め、先人の意志を大切にしていきたい。(大)

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