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パリ最新情報「視覚と嗅覚のコラボが実現。進化するパリのアートシーン」 Posted on 2022/01/06 Design Stories
コロナの大きな波にも負けず、モーターを回し続けるパリ。
これを観光客が完全に戻る前の「好機」として捉えているのか、最近のパリでは施設をリニューアルさせたり、新店をオープンさせる姿が目立つ。
世界一の観光都市ではあるものの、以前のような活気を取り戻すのにはまだまだ時間がかかる。ということでフランス政府は国民に対して「地域を再発見する国内旅行」を勧めており、パリの観光名所は今、内需によって支えられている。
しかし、現状維持を良しとしないのがフランス人だ。「ここはもっと良くすることができる」「こんな案があったらもっと面白いのに」といった、フランス人ならではの声も各所で上がっている。
そんな声を受け、パリの美術館では2021年の後半から実にフランスらしい試みがスタートした。それは、匂いと芸術のコラボレーションで、美術館を訪れるとその作品にリンクした香りが漂ってくるというもの。
香りの記憶を呼び覚まし、より芸術への理解を深めようというのが狙いのようだ。
パリ5区の国立自然史博物館、2021年7月にオープンしたオテル・ドゥ・ラ・マリーヌ、そしてルーブル美術館の3つで始まった。
パリ5区の国立自然史博物館は、フランス革命期の1793年に設立された、フランスで最も重要な美術館の一つ。
昨年10月から2022年7月まで開催されている企画展では、世界の自然遺産を映像で展示するデジタルアート展が開催されている。
世界中の有名な森林地などが映像で紹介され、実際の企画展スペースでは映像に合わせた香りが漂ってくるという。
例えば、アマゾンの熱帯雨林の映像が映し出されれば「湿った大地の香り」が会場に流され、フランス中部の牧草地の映像であれば「新緑の季節のグリーンの香り」が漂う。
訪れた人からは「ものすごくリアル」といった声が上がり、作品への興味が深まると同時に、嗅覚も働いたことでより鮮明に記憶に残るという。
コンコルド広場にあるオテル・ドゥ・ラ・マリーヌは、18~19世紀のフランス装飾芸術を満喫できる文化遺産として、昨年新たなパリの観光名所に仲間入りした。
かつての所有者の夫人、ティエリー・ドゥ・ヴィル・ダヴレーの寝室などが公開され、ヴェルサイユ宮殿さながらの華麗な建築が話題となっている。
そんな夫人の寝室では、18世紀当時の貴族女性の香りが再現されている。
18世紀フランスでは、マリー・アントワネットをはじめとした身分の高い女性のあいだで「バラ」の香りが大流行。
南仏グラースから取り寄せた、ジャスミンやローズ・ド・メ(五月のバラ)の香りを寝室に吹き込み、当時の絢爛豪華な生活を視覚と嗅覚の両方で感じることができる。
このユニークなコラボレーションを共通して担当しているのが、フランス人の女性調香師ドミティル・ミシャロン=ベルティエ氏だ。
より良い雰囲気を演出すること、閉じていた感情を呼び起こすこと、作品への理解を深め、そしてそれを記憶すること、新しい形の展示を提供することが目的だという。
また、ルーブル美術館では実際に館内で香りが漂うというわけではないが、ベルティエ氏はこの度ルーブル所有の名画「グランド・オダリスク」を香水化することに成功。
「グランド・オダリスク」はモナリザと並んで、ルーブル美術館の“2大美女”と呼ばれる美しい裸婦像である。
なめらかで陶器のような肌、焚かれたお香、ブルーサテンの寝具などからヒントを得て、なんと絵画を香りにしてしまったのだ。
現在、ルーブル美術館は香りと名画のコラボに関してさらなる興味を示しているそうで、そう遠くない将来には世界的な名画が香りを伴って登場するかもしれない。
こうしたフランスらしい試みが今、パリの至る所で始まっている。
コロナで内需が高まったことで、フランスの芸術は地元フランス人によってさらなる磨きがかけられた。世界から観光客が戻ってくる頃には、一層パワーアップしたアートシーンを体験することができるだろう。(内)