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パリ最新情報「新型コロナ、なぜフランスは学校閉鎖に消極的なのか?」 Posted on 2020/03/09 Design Stories
イタリアではミラノを含むロンバルディア全域とヴェネツィア周辺が3月9日から4月3日まで封鎖されるという異常事態となった。また、ここフランスでも感染者が1126人(3月8日の時点)にまで増えた。今日、3月9日からは感染者が集中するコルシカ島のアジャクショ(イ北部イタリアに近い)、そしてオワーズ県とオー・ラン県(市中感染によりる死者が出た地域)では県内全校、幼稚園から高校まで学校閉鎖をすることになった(その他学校も感染者が多い地域では休校になっている)。これによって1200万人のうち30万人の子供達が2週間の自宅待機をすることになるのだが、感染地域全校を休校にするかしないか、ということは国民教育省や公衆衛生高等評議会ではずっと協議されている案件のようだ。
フランスはこれまで感染者が集中する地域のみを順に休校し、一斉休校にはしていない。その理由として、国民教育省や公衆衛生高等評議会側は、まず、コロナウイルスが子供へ与える影響が低いことをあげている。中国で行われた研究では、9歳以下の子供では1%、9歳から19歳も1%の確率でコロナウイルスの影響が出る、という結果が出ており、その理由は単純に子供は大人や高齢者より免疫力が高いから、ということらしい。それにしても、学校という場所はウイルスに感染しやすい場であることには間違いない。学校閉鎖は、子供たち自身をウイルスから守るというより、集団生活で子供たちが感染し、大人や高齢者にウイルスを移すことを防ぐという意味で役に立つことになる。しかし、これは子供たちが一切の集団生活を避け、隔離できた場合にのみ有効だ、と国民教育省や公衆衛生高等評議会は語っている。
現実的に、子供たちが2週間ものあいだ自宅でじっとしていられるか? という問題は必ず浮き上がる。幼稚園や小学校の子供をひとりで自宅に残すわけにはいかない。そうなると、結局、誰かに子供を見てもらわなければならず、その場合、学童保育機関やgarde partagerという集団ベビーシッター制度など、規模は小さくなっても ”集団”に頼ることになる。中学生や高校生にもなると親がいない間、友達と会ったり、街へ出かけたり、するなと言ってもこれは無理な話である。(日本がまさに今この問題を抱えている)。2012年の新型インフルエンザ(H1N1)流行時に発表された公衆衛生高等評議会のレポートには、全ての集団生活を避けられなければ感染を食い止めることはできない、と明記されてある。そして、違う問題として、休校になり子供の世話をしなければいけなくなる人の大半が女性であり、彼女たちの仕事への影響についても懸念が示された。(今回、コロナウイルスによる学校閉鎖が理由でテレワークができず、仕事ができなくなる16歳以下の子供がいる親(どちらか一人)に対し、雇用者が給料を確保できるよう、社会保険で2週間の保障が行われることになった)
また、休校が原因で生まれる学習の遅れについては、教育大臣は3月9日から休校になる学校の生徒に対し、フランス国立遠隔教育センターの遠隔教育システムに最大700万人が同時にアクセスできるよう約束した。ただ、インターネットを介したこのシステムには貧困層など、自宅に機器が揃っていない家庭もあるため、課題もある。
以上のようなことから、ウイルス感染拡大を防ぐための学校閉鎖について、閉鎖と再開の基準を決定するルールやアルゴリズムが確立していないため、公衆衛生高等評議会は学校閉鎖に対して消極的なのである。
学校がいつか休校になるかもしれない、という政府の意思はすでに子供たちにも通達されているようだ。これが実行されるかどうか、国の様々な機関、国民教育省や公衆衛生高等評議会を中心に、各国の動きなどを鑑みながら、議論が繰り返されているという状態にある。この問題に関して、フランスは全ての関係者が過去のデータを慎重に分析し、今、フランスにとってどのような形での学校閉鎖が感染抑制に有効かを議論している最中だ。今日現在、来るべき日を前に、慎重でありながら迅速な対応が進められているというところであろう。