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パリ最新情報「有機野菜の『1キロ1ユーロ作戦』がフランスで広まる。インフレ、食品廃棄にNON」 Posted on 2023/02/03 Design Stories
フランスのインフレはいつまで続くのか。
これは消費者だけでなく、生産者にとっても非常に関心の高いテーマだ。
しかしながら、インフレは年が明けてからも上昇を続けており、2023年1月のインフレ率は全体で6%と、昨年のどの月よりも高い数値をマークしてしまった。
エネルギー代の高騰のほかに目立つのは、やはり食品である。
食品の分野ではたった一年で13.2%もの上昇率となった。
そのため食費を切り詰めるようになった、外食に行かなくなった、と話すフランス人も目立って増えてきた、という印象を受ける。
では生産者側はどうか。
エネルギー代の高騰問題は各生産者にも暗い影を落としており、パン屋、肉屋といった職人系の店は値上げを余儀なくされている。
またオーガニック製品を専門としたBIOショップなども、「値段が高い」との理由で顧客に敬遠されてしまっている。
こうしたインフレは、実は二次被害を生んでしまう。
食料品が高いために生じる“食品廃棄問題”だ。
つまり人々が値上がりした野菜・果物を買い渋った結果、逆に捨てられる食品がスーパーマーケットで増えているというのだ。
フランスはもともと食品ロスに関心の高い国であったが、今では高額な値段のせいで、望まない食品廃棄を発生させてしまっている。
これではかなりの悪循環だと言えるだろう。
また、スーパーに並ぶ前にも問題が生じているようだ。
例えばスーパーやBIOショップでは、農家の作った「傷物の野菜(味には問題ないが、見た目が良くない等)」を断るケースがある。
ところが昨今のエネルギー高騰問題で、農家はコスト削減のために温室の温度を下げたり、人件費を削減しなければならなかった。
結果的に野菜・果物は見た目が悪く育ってしまい、小売業に断られるケースも増えているという。
また通常の農家よりコストのかかるオーガニック農家では、そのダメージがさらに大きい。
捨てるのを避けたい生産者と、味が変わらないのなら安く買いたいという消費者。
こうしたニーズを合致させようと、有機野菜の「1キロ1ユーロ作戦」がフランスで広がり始めた。
これは、フランスの地方都市で噂になっているオーガニック農家の作戦で、「légumes moches(傷物野菜)企画」とも呼ばれている。
南部のトゥールーズ、ストラスブール近郊、仏北部オワーズ地方などで広まっており、文字通り、規格外の野菜を1キロ1ユーロ(約140円)の価格で販売するというものだ。
野菜の種類は日持ちのするニンジン、ジャガイモ、ポティマロン(かぼちゃのような野菜)、玉ねぎ、ビーツなど。顧客からは大好評だといい、ご近所さんや高齢の親のために20キロ〜30キロのまとめ買いをする人もいるそうだ。
※ポティマロン
「1キロ1ユーロ作戦」は、各地で毎週末に開催されている。
スペースのないパリでは難しい企画だが、農家が暮らす地方ならではの嬉しいイベントだと言えるだろう。
広告はSNS以外ではチラシ、口コミのみ。
それでも普段は高額なオーガニック野菜が安く手に入るとして、数十キロ先から車を飛ばしてくる顧客もいるとのことだ。
※北部オワーズ地方の1キロ1ユーロ作戦
ただ皆に喜んでもらえるとはいえ、オーガニック農家にとっては野菜が正規価格で売れないと、今の苦しい生活からは解放されない。
フランスでは2022年1月から9月にかけて、有機製品の売上高は6.3%減少した。
このためオーガニック農家は将来を懸念しており、「嵐が過ぎ去るのを待つしかない。1キロ1ユーロ作戦がこの先1年、2年と続くかどうか、誰も分からない」と、複雑な心境のようだ。
コロナ禍の健康志向で一気に注目を浴びたオーガニック食品。
しかしそのブームも束の間、インフレという現実問題がオーガニック業界に打撃を与え続けている。
ただ食品廃棄だけは避けたいので、例え短い期間であったとしても、1キロ1ユーロ作戦がフランス全土で広まってくれると良い。(チ)