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パリ最新情報「パリ・オペラ座、誕生から今日までのコラージュ」 Posted on 2022/03/11 Design Stories  

オペラ座、シャトレ座、オデオン座…パリには多くの劇場があり、興味深い演目が毎シーズンのように繰り広げられている。
3月8日には、パリのシャトレ座にてウクライナのキーウ(キエフ)市立バレエ団がフランスツアーの千秋楽を飾った。
満席の会場からは大きな拍手が送られ、パリのアンヌ・イダルゴ市長も出席しアーティストたちを激励した。

パリ最新情報「パリ・オペラ座、誕生から今日までのコラージュ」



数ある劇場の中でも、より多くの逸話を残しているのがオペラ座だろう。
建築を担当したシャルル・ガルニエの名から「ガルニエ宮」とも呼ばれるこの劇場は、1875年1月5日に落成式が行われた。

オペラ座にまつわる逸話は、当時の建設現場から始まっている。
その頃、工事中の地下水路で幽霊が出たという噂が広まった。
『オペラ座の怪人』がこの怪談をもとにガストン・ルルーによって執筆された、というのはよく知られるエピソードである。

パリ最新情報「パリ・オペラ座、誕生から今日までのコラージュ」

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ナポレオン3世の命によって建設されたというだけあって、内装も絢爛豪華だ。
グラン・フォワイエと呼ばれる大広間、そして観覧席へ上がるための大階段は高さが30mもあり、美しさと迫力を兼ね備えている。

しかし、シャルル・ガルニエは当時まったく無名の建築家であったという。
35歳という若さで、ナポレオン3世が開いたオペラ座建設のコンペを満場一致で勝ち抜いた人物だ。
オペラ座からルーブル美術館までを結ぶオペラ大通りも同時期に建設された。

パリ最新情報「パリ・オペラ座、誕生から今日までのコラージュ」



劇場の天井画にはちょっとした事件もあった。
現在はシャガールの傑作『夢の花束』がオペラ座一の見どころとなっているが、以前は他の絵が描かれていた。
作者はジュール=ユジェーヌ・ルヌブ。
オペラ座の誕生後、約90年にわたって天井に掲げられていたものの、劣化が指摘されてしまう。
しかし絵の変更には多くの反対論が上がったため、当時の文化大臣アンドレ・マルローは「取り外しのできる天井画」を提案し、周囲を驚かせた。

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そこでマルローと親交のあった画家シャガールに白羽の矢が立った、というわけである。
オペラ座の天井には、今もシャガールの奥にまったく別の絵が眠っている。
世論を重視したとはいえ、贅沢な重みをオペラ座の天井は支えているのだ。

公開後しばらくはパリ市民から非難を受けたというが、ルーブル美術館のピラミッドも、ポンピドゥーセンターも、古くはエッフェル塔も、景観にそぐわないという理由で初めは大勢の人に反対された。

しかし、どの建築物も時間をかけてゆっくりと街に馴染み、今ではなくてはならない「パリの象徴」として君臨している。
ネオバロック様式のオペラ座にシャガールの絵、というのも良い化学反応を起こした結果であり、新しいパリの在り方を決定づける強烈な布石となった。

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オペラ座は現在、新たなフェーズに入ろうとしている。
2020年末にはコロナの打撃を受けて存続の危機にある、というニュースが流れた。
それでもオペラ座はもちこたえ、同時期に新しいプラットフォーム “L’Opéra chez soi”を開設。ロックダウン中、有料ストリーミング公演をガルニエ宮から初めて世界に配信した。

さらに今年5月初めには、無料イベント“Tous à l’Opéra”も開催される。
フランス国内の30か所のオペラ劇場が無料になるイベントで、普段はチケットが高くて行けない、といった人にも門戸を開放する。
サブテーマを「舞台裏にもスポットライトを」とし、音響、照明、衣装、美術製作など、劇場を取り巻く裏方の仕事も紹介しながら、市民との距離を縮めていく。

時代の波は名門オペラ座にも容赦なく押し寄せる。
しかし世界最高峰の芸術を牽引するリーダーとして、今後もトップでい続けるのだろう。
どんどん柔軟性を見せるオペラ座から、これからも目が離せない。(内)

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