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パリ最新情報「フランス伝統、採石場跡で栽培するマッシュルーム」 Posted on 2023/03/28 Design Stories
フランス料理にもよく登場するマッシュルームは、仏語でシャンピニョン・ド・パリと呼ばれる。
現代では人工栽培のためいつでも手にすることができるが、本来であればちょうど今、3月から4月にかけてが出回り時期だという。
シャンピニョン・ド・パリと呼ばれるマッシュルームは、18世紀からパリ内外の地下採石場跡地で栽培されるようになった。
パリの地下には今も謎めいた採石場跡地が広がっており、その多くはかつて、天然の空調を活かしたキノコの栽培場であった。
しかし人工栽培技術に押され、1990年代にはほとんどが閉鎖に追い込まれてしまう。
合計で400あったキノコ栽培場は次々に姿を消し、現在残っているのはたった五つだけとなってしまった。
本日はそのうちの一つ、パリ西郊外にあるエヴェックモン(Evecquemont)のキノコ栽培場から、伝統的な栽培法をご紹介したい。
パリから車で40分の所にあるエヴェックモンは、セーヌ川に隣接した穏やかな街。
このようなパリ郊外のセーヌ川沿いでは、良質な石が採れるとして、採石場が多く存在していたという。
エヴェックモンのシャンピ二オ二エール(キノコ栽培場)も採石地だったといい、1936年までは実際に稼働していた。
ということで、パリ近郊の中では比較的新しい栽培場となっている。
しかし広さは最大級の4ヘクタールで、その奥行きを活かしてヒラタケや椎茸の栽培も行っているということだ。
採石場跡地のメリットは、キノコを育てる土壌の上に、現場で採れる石灰石の砂を敷けること。
これによって保水効果が期待できるとともに、伝統栽培ならではの豊かな風味をキノコにもたらすことができる。
※洞窟にはいくつもの小部屋が
フランスの伝統的な栽培法としては、まず馬糞をもとにした堆肥と麦わらを混ぜ、殺菌処理をされたコンポストを土壌として使う(殺菌によって有害ではなくなる)。
そして25度に設定した湿気の多い小部屋で、その土壌に菌をまき、およそ2週間ほど培養させる。
※2週間ほどたった状態
完成までにかかる時間は5週間。
そして採石場跡地は一年を通して常時同じ温度に保たれるため、工業生産と同じようにいつでも栽培が可能なのだそうだ。
ただ味には歴然とした差が出るといい、栽培期間を短縮して無理に育てた工業キノコよりは、こちらの方がずっと味が濃く、ぷりぷりの歯ごたえが楽しめるという。
※一見、ジャガイモが転がっているように見える、肉厚のブラウンマッシュルーム
実際の現場は、キノコの芳醇な香りで満たされていた。
時には30センチの大きさにも育つそうで、規格外に大きいものはマルシェではなく近隣のレストランに届けられる。(キノコの行先は個人宅、マルシェ、レストランオーナー、ピッツェリアなどさまざま)
またこちらでは直売場も設けられており、シャンピニョン・ド・パリが一キロで4ユーロ(約560円)と嬉しい価格だった。
フランスのマッシュルームが「シャンピニョン・ド・パリ」と呼ばれる理由は、ルイ14世の大好物がキノコであったことに由来する。
当時はロワール渓谷とパリでの栽培が盛んだったそうだが、ルイ14世はパリの採石場跡地に直接顔を出し、そこで育ったキノコが一番美味しいことを発見する。
パリのマッシュルーム栽培はそこから発展し、名前にも「パリ」が入った、というわけだ。
ただ現代ではほとんどが家族経営のため、後継者が見つからず人材には非常に困っているという。
ずっと暗く、携帯の電波も入らない洞窟に若い人は興味を示さない、と栽培場のオーナーは話していた。
しかしパリ近郊のキノコ栽培場では、近年こうした「大人の社会科見学」の場を設け、物販以外の触れ合いを一般市民にも与えてくれている。
地産地消が叫ばれているフランスにあっては、こうした伝統栽培が再び脚光を浴びているという印象を受けた。(オ)