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パリ最新情報「年金問題でストが続くフランスでタイムリーすぎる”アートの中のお金展”」 Posted on 2023/04/01 Design Stories  

パリ最新情報「年金問題でストが続くフランスでタイムリーすぎる”アートの中のお金展”」

<1> 会場はセーヌ左岸の造幣局博物館の特別展会場。9世紀に創られたフランスで一番古い機関で世界最古の会社の一つとも言われている。リフォームはされ続けているが、その歴史を今に感じさせる建築物も見どころである。

 
フランスの年金問題、それに関するストライキは、それに関わる人も関わらない人にも「生きること、仕事、お金」について考えさせるに至っている。
構想から約10年かかって今、晴れて開催されている「ラル−ジョン、アートの中のお金 L’ART-GENT l’argent dans l’art」展は、そんな今のフランスに、タイムリーなパリ造幣局博物館の企画展である。
ちなみにラル−ジョンはフランス語の“お金”と“アート”と“仲間、国民”をもじった造語タイトルだ。
とは言ってもストライキに関わる多くの公務員たちにとって、この怒りの真っ最中に美術館訪問なんて不必要では?!なんてことは全くない。
そこに解決法があるわけではないが、叫び続けるだけではない違う道が見えてくるかもしれないからだ。またアートなんて分からない… という人にこそご覧いただきたい、アートが ‘ 分かることが分かる ’、余韻をもたらすはずの展覧会でもある
 



パリ最新情報「年金問題でストが続くフランスでタイムリーすぎる”アートの中のお金展”」

<2>  紀元前430年頃のギリシャの酒と水を混ぜる深鉢。描かれているのは黄金の雨を体に受けているダナエ(ギリシャ神話の美貌の女王)。黄金の雨は彼女を愛して変身したゼウスだが、金のために自分を売る脱落した女性の象徴にもなってしまった。
© RMN-Grand Palais (musée du Louvre) _ Hervé Lewandowski 



 
Argent (アルジョン)とは、フランス語でお金のこと、そして銀のこと。
お金は日本では金(ゴールド)が名称として当てられたが、こちらは銀(シルバー)だ。
とはいえ日本や中国でもそれを扱うところは“銀”行なのは不思議だが。
しかしどう呼ばれようと、この四角い紙や小さな玉型の金属を、世界中で共通して、揺るぎなくその価値を認め、断固として同義で私たちは扱っている。
なんとも不思議なその存在と人間の意識だ。
 

パリ最新情報「年金問題でストが続くフランスでタイムリーすぎる”アートの中のお金展”」

<3> エーゲ海近くのリディア王国(現トルコ)で紀元前561-541 年頃に使われていた世界最古の金貨といわれているもの。日本のコインショップでも高額で取引されている! © Monnaie de Paris 



 
そんなお金の存在をアートとして映し出されたものが、前世紀から今に渡って勢揃い。
例えば、お金に関わる悪を暴くようなもの、お金の定義を翻すような問いを突き付けるようなもの、お金にまつわるバカバカしさを象徴するようなもの、危なしげなお金とスピリチュエルのつながりを匂わすもの、男性と女性、各々の視点からの‘女性とお金’についてをあかららと示すもの…。
また貧富の差を痛々しく突き付ける作品は、現在のフランスのストの怒りを正当化するようだ。
 

パリ最新情報「年金問題でストが続くフランスでタイムリーすぎる”アートの中のお金展”」

<4> マルセル・デュシャンは、当時歯医者に払う金がなく、自分で作った小切手を渡した。その値段は歯医者代より現在高値となった…。

 
日本の皆さんにファンの多い印象派絵画は、多くの人々が認識しているように絵のムーブメントを変えた、というだけでないことにも触れた。
印象派画家たちは今までより一枚の絵にかける時間が短くなったが、と言って絵画の値打ちは下がらない。
時間とお金が対等であるとは限らないことを、暗に人々は解し、その認識はアートマーケットだけではなく、人々の生活にも影響したそうである。
 

パリ最新情報「年金問題でストが続くフランスでタイムリーすぎる”アートの中のお金展”」

<5> 一点一点にある作り手のメッセージ。生前に自分の骨をアーチストに打ったという女性、それを黄金に塗って作品にするアーチストの狙いは・・・?

 
アートとお金。
この二つは、全く対なる世界に存在しているようであるが、実際手をしっかり握りあっているようでもある。
そのパラドックスを目の前に広げる展覧会。
見るものは、お金に対するそのモラルを問わずにいられない。
しかしアーチストたちも実際、見るもの同様に我に問いているのだ、時代を問わず。
なかなか珍しいテーマの見逃せない展覧会である。(ア)
 

パリ最新情報「年金問題でストが続くフランスでタイムリーすぎる”アートの中のお金展”」

 
L’ART-GENT l’argent dans l’art  「ラル–ジョン アートの中のお金」展 Monnaie de Paris
11. Quai de Conti 75006
2023年3月30日から9月24日まで
 

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