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パリ最新情報「子どもに姓の自由選択を。夫婦別姓の国フランスが新法施行へ」 Posted on 2022/05/25 Design Stories
フランスが夫婦別姓を選択するようになって久しい。
女性も男性も旧姓を使い続けることができ、希望すれば相手の姓を名乗ることも、お互いの苗字を取った複合姓を選択することもできる。(結婚したカップルに限る)
ところが、夫婦から生まれた子どもには姓の選択権がなかった。
フランスではこれまで、約85%が父親姓をごく普通に授かってきた。
しかし民法には「子どもは父親姓を継ぐべき」という一節が明確にある訳ではなく、古くから続く「伝統」を単に継承していただけとなる。
2022年3月に可決されたのは、そんな伝統を打ち破る「姓の変更と選択に関する法案」だ。
フランス全土で7月1日から施行されることが決定している。
今までは、本姓(生まれた時に与えられた姓)を変更するためには、家庭裁判所に書類を提出する必要があるなど膨大な時間と費用を要した。
今回の新法は、これらのステップを大幅に短縮し、市役所への届け出一つでできるようになったというもの。
さらには18歳以上の成人に限り、姓を母親姓のみ、父親姓のみ、あるいは両親の二つの姓からなる複合姓(順番は自由)に自由に変更できる。
未成年の子どもの本姓に関してはこれまで通りだが、新法施行後は、出生時にパートナーの姓を継承させたどちらかの親が、後になって自分の姓を付け加えることも可能になった。
ただし、両親が合意できない場合は家裁が判断。子どもが13歳以上ならば子どもの合意も必要となる。
今回の新法については、デメリットは何もなく、メリットの方が大きいという意見が多い。
たとえば夫婦別居中の子どもの姓について、フランスでは10人中8人の子どもが出生時に父親の姓を与えられているというが、父親姓を継続して使うことは、母親にとって複雑な問題を引き起こすことがある。
特に子どもを病院に連れて行く時、飛行機搭乗時などが該当するという。
母親と子どもの姓が違うことで、母親であるという証拠書類を提出しなければならず、緊急時でも足止めされることが少なくなかった。
このため姓の変更手続きが簡易化したことは、離婚や再婚の多いフランスで非常に有意義なことだと言える。
もちろんそれだけではない。
子どもが親の意志ではなく、自分自身でどちらかの姓を選択できるようになったことに大きな意味がある。
そして実は、フランスには苗字の長い人が多い。
複合姓を名乗るフランス人は年々増えているのだが、たとえば複合姓同士のカップルが結婚した場合は、計4つの姓を名乗ることもできるというのだ。
簡易的な手続き(ショップでの会員登録など)は、両親どちらかの姓だけを名乗って「通称」を使うことも可能なのだが、公的な書類上では驚くほど長い苗字を持つ人もいる。
今後は家庭内でもさまざまな姓が並ぶことが予想されるが、これも現代フランスを象徴する光景の一つと言えるだろう。
男女平等がかつてないほど叫ばれているフランス。今年もまたひとつ、ジェンダー公平に向けての大きな一歩を踏み出した。(オ)