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パリ最新情報「いじめは加害者に転校措置を。フランス、新たなスクール・ハラスメント対策を発表」 Posted on 2023/08/31 Design Stories
フランスでは9月の新学期から、「いじめを受けた生徒ではなく、いじめを行った生徒をほかの学校に転校させる」という新たな措置が取られることになった。
これは8月17日に発表された政令で、28日に行われたガブリエル・アタル仏教育大臣の会見でも詳しく言及された。
なお発表された政令の中では、同一学校内だけでなく、他校の生徒に対するネットいじめの加害者に対しても同様の措置が取られるという。
フランス史上最年少で着任した新教育大臣のガブリエル・アタル氏(34)は、会見にて「新学期の主な目的はいじめとの闘いである」と繰り返し述べた。
また17日の発表の際も、「いじめは多くの生徒を悩ます惨劇」だとエリザベット・ボルヌ首相が指摘していた。
今回の措置は、フランスで2人の中学生がいじめを苦に自ら命を絶ってしまった事件(23年1月、5月)がきっかけだった。
しかし2022年以降フランスでは、学校でのいじめは刑事罰の対象となっている。
にも関わらず自死した生徒が相次いだことよって、仏政府はいじめ加害者に対しさらなる措置を設ける事態となった。
これまではフランスでも、いじめを受けた被害者が転校する、という選択肢しかなかった。
ところがいじめ被害者の生徒と家族は、いじめによる精神的苦痛のほか、学校を変えなければならない“二重苦”を強いられてしまっていた。
よって今回は「被害者を守る」「対応が早い」という点において、フランス国内でも一定の評価があるようだ。
では加害者が転校に至るまではどのような経路を辿るのか。
今回の措置では、いきなり転校とはならない。
まずは加害者生徒の意図的かつ反復的な行動が、ほかの生徒の安全や健康に明らかな危険を及ぼす場合、学校長は加害者生徒の保護者の関与のもと、その行動をやめるよう口頭および書面にて通告しなければならない。
転校措置は、前述の措置を実施したにも関わらず、加害者生徒のいじめ行動が続く場合である。
その際、学校長は加害者生徒を学校から退学させ、同じ自治体にある他校に入学させるよう市長に要請することができる。
ただこれが根本的解決になるかどうかは、関係者からも疑問の声が上がっているという。
そして疑問にはいくつかの種類がある。
まずは、「いじめをする人間は場所を変えても同じことを繰り返すのではないか?」という疑問だ。
このような問題は、嫌がらせをする1人の生徒だけでなく、容認する周囲にも厳しい目を向ける必要がある、と仏紙le Journal du Dimancheが言及している。
また、転校させられたいじめ加害者を「受け入れる」学校側の心配もある。
いじめ問題は中学校で多いのだが、受け入れる側としては加害者と同じような過去を持つ生徒が多すぎてもいけない。
パリやリヨンなど大都市なら良いとしても、そもそも学校の少ない田舎ではスキャンダルになりかねない、というのだ。
小中学校が地方にあり、大都市に比べて代替手段が少ない場合では、転校先でいじめ問題がさらに悪化することも懸念されている。
※今回の措置は転校が「可能」であり義務ではない。
こうした根本的解決には「予防」が一番だと提唱する専門家もいるが、フランスでは教員不足が深刻だ。
一方でガブリエル・アタル教育大臣は28日の会見にて、今秋からすべての教員は月給が原則2000ユーロ以上(約31万8000円)になると保証している。
しかし教育現場では人員不足が原因となり、いじめとの闘いは「長期的な仕事」であると見積もられているのが現状だ。
なおSNSの広がりもあり、フランスの小・中・高等学校では約100万人の生徒がデジタル・ハラスメントの被害にあっているという。(内)