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パリ最新情報「ロックダウン後のフランス不動産事情の怪」 Posted on 2020/09/05 辻 仁成 作家 パリ
フランスの田舎の不動産物件が消えた。残っている物件も高騰している。「この夏、抱えていた全ての物件が売れてしまった。ブルターニュからノルマンディにかけてのメゾン(家)、アパルトマン、比較的高級物件から売れていったのよ。長い不動産屋生活で初めての経験だったわ」不意に沸いたコロナ特需に不動産屋は驚きを隠さなかった。
コロナ禍から逃げたい都会の人たちが、慌てて家を買いに走ったせいで、売りたくても家がない状態になっている。だから、当然、家の値段は高騰している。ブルターニュ、ノルマンディなど、パリから比較的に近い不動産屋も同じであった。北西フランスのリゾート地の物件は現在、品薄状態が続いている。
ロックダウン後、パリにいる大勢の外国人が自分の国へと帰っていった。仕事がないこと、外国人なので補償がないことが一番の理由だが、同時に、コロナ禍への不安もあった。在仏日本人も帰国した人が多い。ロシア人、ギリシャ人、オーストラリア人など、これを機会にフランスを離れた在仏外国人も大勢いる。
スウェーデンに帰った美容整形医は、
「景気が見通せないフランスにいるよりも、親族や友人のいる祖国で暮らす方が安心感がある。経済はスウェーデンも冷え込んでいるけれど、経済的利点がなくなれば自分の国で生きるのが安心だから」
と語った。
知り合いのIT関係で働く家族も、テレワークが出来ることを理由に、それまで縁もゆかりもなかった田舎街へと幼いお子さんたちを連れ引っ越してしまった。安全な場所などないのだけど、やはり、人が多く集まる都会が感染のリスクが高いのも事実だ。
貯金を全て注ぎ込んでスペイン寄りの地中海沿岸の村に引っ越しをする若いカップルのドキュメンタリーがテレビで流れていた。決して裕福ではないこのカップルは、都会の幻想を捨て、田舎で半自給自足の生活を送り、人間本来の在り方に戻る人生へと舵を切りたい、と語っていた。
コロナで経済が厳しくなっている中、不動産業は意外にも好景気なのだという。家の内装や、家具、建築、インテリア関係の業績が好調だった。都会から田舎へという流れが落ち着く頃に、たとえばここパリも人々の流出のせいで、これまでのようにパリ一極型の経済圏ではなくなり、フランス全土に分散した新しい経済圏へと生まれ変わろうとしているのかもしれない。コロナが長引けば長引くほど、テレワーク主体の経済の在り方が定着していく。
フランスの大企業はすでにテレワーク主導になっているので、サラリーマンが会社から消えはじめており、そのせいで、9月のレストランは客足が戻らず、むしろ、夏よりも減じている。経営者側もこれからの会社経営の在り方を再検討している。日本からは、人材派遣会社のパソナが淡路島に本社を移転させるというニュースが届けられた。都会を離れる人々は今後も増えていくのだろう。そして、ネットを介した経済、学問、政治の新しい在り方が急速に確立されていくのかもしれない。その時、ぼくたちはどうやって、新社会と向き合っていくのか、が問われる。衣食住の在り方が根本からコロナによって変えられてしまった、ということであろう。2021年の世界がどう変容しているのか、現時点では想像ができにくいが、ここフランスでは、地方に基盤を移し、人間本来の営みを求める人々の動きが加速しつつある。ネットやオンラインの重要性が増すことになりそうだ。
※今日のパリ最新情報は編集部じゃなく、辻が担当しました。