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ロンドン最新情報「コロナ後の日常は、子どもたちの未来を考えなくてはならない」 Posted on 2021/07/01 Design Stories
イギリスでは1日あたりのコロナウイルスの感染者数が2万人を上回る日が続き、ワクチン接種を受けていない子どもたちの学校生活に影響が出ている。
先週はイングランド域内だけで375万人もの児童生徒がコロナを理由に学校を欠席した。
しかし、陽性が確認されたのはそのうち4%だけで、ほとんどが感染者の濃厚接触者であることから自宅待機となっている。
イギリス政府は昨日、秋には50歳以上の中高年や持病がある人などの高リスク集団に対して、3回目のコロナウイルスワクチン接種を予定していると発表した。
今日付の「タイムズ」紙は「秋からコロナウイルスとインフルエンザのワクチンを両腕に同時接種」との見出しで大きく取り上げた。
一方で、17歳以下の子ども全員に接種が行われる計画は今のところない。
重症化のリスクが少ない子どもへの接種による利益は主に大人の感染拡大を防ぐためであることや、余剰分のワクチンは後進国に寄付するべきだという倫理的な議論が背景にある。
アストラゼネカ社製ワクチンの子どもを対象とした臨床試験は、まれな副作用で血栓ができることが明らかになったことから春に中止されている。
サジド・ジャヴィス保健相は現行の規則を夏休み明けに改正し、校内で感染者が出た場合も毎日ウイルス検査を行うことで登校できるようにする方針を示した。
昨日の国会では、野党労働党から秋を待たずに迅速な対応をするよう求める意見が出た。
ガビン・ウィリアムソン教育相はこれに答えて、不必要な自己隔離による影響を認め、今月予定されている規制緩和の一環として「できる限り早く」規則改正を行うために、保健相とともに学校への通知内容を検討していると説明した。
今日付の「アイ(i)」紙は一面でこのニュースを取り上げ、秋からは児童生徒にコロナウイルス患者が発生した場合について、インフルエンザなどの他の感染病と同様、患者だけが自宅療養し、濃厚接触者の自宅待機は行わない方針で政府が検討していると伝えている。
休校による影響は恵まれない家庭の子どもに顕著で、教育格差の拡大が懸念されている。
休校期間が明けても学校を休みがちになった子どもが居場所を求めて犯罪集団に入るケースが増えているとする報告書を、シンクタンク「センター・フォー・ソーシャル・ジャスティス」が6月29日に発表した。
昨年3月から多くの学年で夏休みまで続いた休校の後、秋学期(9月〜12月)の出席日数が欠席日数を下回った子どもは9万人に達した。
ケヴァン・コリンズ元教育復興長官は、この日の国会の下院の教育特別委員会に出席し、「教育の不平等がコロナウイルスの遺産となりかねない」「コロナウイルスの最大の被害者は、恵まれない子どもたちだ」と警告している。
また、保守党議員を中心とする教育委員会は先頃、「忘れられた子どもたち-白人労働者階級の生徒たちの失望と、現実をどう変えるべきか」と題する報告書を発表した。
2018年〜2019年のデータに基づき、白人貧困層の子どもは有色人種の貧困層の子どもに比べて学力が低いことを指摘し、「白人の優位」という伝統的な表現を撤廃して白人労働者階級の子どもの教育に力を入れるべきだと結論している。
これについて、同委員会に所属する労働党議員や人種差別問題のチャリティー団体は、すべての恵まれない子どもを対象に問題に取り組むべきだと批判している。
筆者の子どもが通う小学校では、3月の登校再開以来感染者は出ていないが、いつ学級閉鎖になるかと思うと気が気ではない毎日だ。
1月から3月までの休校期間にはアプリ「シーソー」を通してリモート授業が行われたが、これが悲惨な日々だった。
学校からは「このアプリを使えば、移民で親が英語を話せない家庭でも大丈夫」という説明があり、通常のカリキュラムをこなすことが求められた。
イギリスの小学校では1年生(5〜6歳)で繰り上がりのある足し算を学ぶ。授業動画での先生の教え方が日本と異なるため、親も戸惑うことがあった。
子どもが授業を理解し、学校から求められる課題を提出するまで、結局は親が仕事時間と睡眠時間を削って全面的にサポートしなくてはならなかったし、今も市販の教材を買って補習を続けている。
裕福な共働きで住み込みのナニー兼家庭教師を雇う家庭がある一方で、貧困家庭では子どもが放置されている事態もある。
筆者は、近所のアラブ系の家庭の小学6年生の女の子が、リモート授業がある日も幼い弟を連れて買い物をしている姿を何度も見かけた。
子どもが登校できない日が1日でも長引けば教育格差が広がることは避けられないし、親子ともに不公平感や疎外感が募り、社会の分断にもつながりかねない。
コロナウイルス関連の規制緩和は、経済対策ばかりが注目されがちだ。
「コロナ後の日常」が始まりつつある今こそ、これまで主に大人の感染対策のために大きな負担を強いられてきた子どもたちの未来を考えなくてはならない。(清)