1月19日（木）、仏政府の年金改革案に反対するストライキ、デモがフランス全土で決行された。
これは、政府が10日に発表した定年引き上げを含む新・年金改革案に国民が猛反発を示したもの。
フランス労働組合は、政府の記者会見直後から19日のスト開催を発表しており、この日を「jeudi noir（暗黒の木曜日）」と名づけ、民間企業含む国民の総動員を呼びかけていた。
 

 
ストライキは19日現在、鉄道、航空、学校、製油所など広範囲に及んでおり、民衆によるデモ行進はフランス全国200カ所以上で決行された。（約75万人以上が参加見込み）

中でも公共交通機関の乱れは、2019年末の「ゼロメトロ・ストライキ」を思わせるほど大規模なものとなっている。
パリ地域の地下鉄と鉄道は「非常に混乱している」と早朝から報道されており、パリを走る地下鉄のうち12路線はラッシュアワーにのみ、もしくは本数を大幅に減らして運行している状態だ。
また地下鉄8番線は完全にストップし、コンコルド駅、オデオン駅など主要駅のいくつかは終日閉鎖されてしまった。
他地域でもフランス国鉄、長距離列車TGVなどが相次いで減便しており、仏運輸大臣のクレマン・ボーヌ氏も「この日は外出を延期するか、テレワークに切り替えてほしい」とフランス国民に対して異例の呼びかけを行った。
 

 
今回は、フランス最大の労働組合CGTを始めとする主要組合（Unsa、Sud、CFDTなど）が一丸となって動いている。
つまり労働組合の中でも強い行使力を持つフランス国鉄がこのストに賛同していることによって、一般国民を巻き込んだ「非常にインパクトのある」ストライキを敢行しているのだ。
また一部の空の便にも影響が出ている。
エールフランス航空は、短・中距離路線の出発便を10％削減しており、パリ郊外にあるオルリー空港では20%のフライトがキャンセルされる見込みである。

さらにストライキは19日現在、フランスの製油所でも行われている。
年金改革に反対する従業員のストライキ運動は、仏石油大手トタルエナジーズ・グループの70〜100％の製油所で行われている。
報道によれば「北フランスを中心としたあらゆる製油所で出荷が停止している」とのことだ。
これは昨年10月のストを彷彿とさせるような状況で、今後はフランス全土でガソリン不足になることも懸念される。
なおこのストライキは1月26日に48時間、2月8日には72時間にわたり継続されることが発表されている。

フランスの教職員たちも新・年金改革案に反対の意思を示した。
仏教育省は19日、全国の小学校で42％、中学校・高校で34％の教師がストライキを行っていると発表した。
ただ地域によってばらつきがあり、一部の教育機関では教師の欠席が8割に達している所もあるという。
そしてパリ市内では一部の大学が閉鎖された他、大学生らによるデモも予定されていることから、当事者だけでなく若者の関心も高いことがうかがえる。
 

 
今回の大規模ストライキは、ジャック・シラク大統領時代、1995年の年金改革案発表時の混乱に類似している。
当時のジュペ首相は定年引上げを含む年金改革案を提示したが、国民はこれに猛反発、合計3週間の大規模ストライキを決行し、ジュペ首相は結果的に辞任に追い込まれた。

1月19日の初日は当初ほどの規模ではないというが、仏労働組合CGTは「政府の動向によっては無期限で継続する」と声明を発表している。
このため毎週木曜日には19日と同じ、もしくはそれ以上のスト・デモが敢行される可能性も出てきた。
 

 
62歳から64歳の定年引き上げ案は、フランス国民の怒りをここまで買ってしまった。
パンデミック以降の雇用不安、異常なインフレ、エネルギー不足などの不満も重なっているため、国民の怒りは予想以上に爆発的である。
そしてこの結果は、フランスの主要8労働組合が先週開始したオンライン署名が、わずか一週間で50万以上集まったことからも裏付けられる。
これはもちろん、年金改革に反対する一般の人々の声だ。

本日、フランス全土では200か所以上でデモ行進が行われており、人数は全国で75万以上、パリだけで5万人〜8万人が動員されている。
参加者の様子など、フランス人のリアルな意見は明日の情報で詳しくまとめたい。（チ）