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パリ最新情報「日本人も驚く完成度。パリで一番の日本庭園がリニューアル」 Posted on 2022/04/23
日本の庭園は、世界的に見ても評価が高い。
日本文化が浸透しているフランスでは、和食や漫画だけでなく、ジャルダン・ジャポネ(日本庭園)の人気がとても高いのである。
パリ及びパリ近郊、地方都市にはたくさんの日本庭園が存在しており、印象派の画家モネに至っては、自宅の庭に日本式の太鼓橋を作ってしまったほどだ。
パリ首都圏では、16区に隣接するブローニュ・ビヤンクール市の日本庭園が人気で、仏情報誌でも「秘密基地」と紹介されている。
その庭園が、6年の歳月を経て4月5日にリニューアルオープンを果たした。
実はこの日本庭園は、アルベール・カーン美術館という邸宅美術館に併設されている。
アルベール・カーンは、世界を股にかけた19世紀の仏人実業家だ。
フランス国内でもあまり知られていない人物なのだが、彼は旅した世界の風景を、72,000点のカラー写真と、183,000mに及ぶフィルムに記録した。
そのアーカイブが館内展示の中心となっている。
カーン氏は、アジアの中では特に日本に関心が高かった。
実業家として渋沢栄一や大隈重信などの財界人とも親交があり、招かれた邸宅の庭の美しさに感銘を受けたという。
その後に私財を投じ、ブローニュ・ビヤンクールの自宅に日本庭園の建設を始める。
日本から茶室と日本家屋を移築し、日本人の大工や庭師をフランスに呼び寄せた。
広大な敷地内には、日本庭園の他にもフランス庭園、イギリス庭園が隣り合わせになっている。しかしなぜ邸宅の中に異なる文化の庭園があるのか、初めて訪れる人は不思議に思わざるを得ない。
お金持ちが財力にものを言わせて趣味で作ったものなのか?と問われると、答えはノーだ。
これは、主であるアルベール・カーンがある願いを込めて作ったもの。そしてその願いとは、「世界平和」であった。
伝統的な二つの日本家屋に、小さな茶屋がひとつ。
竹林、アヤメ、鯉の泳ぐ池、苔石、手入れの行き届いた松と、パリにいながらにして、和の空間に心が洗われるような庭園である。
鯉はフランスに存在しないため物珍しいのか、フランス人客の人気の的であった。
そしてこの日本庭園では「生、死、男女」の三つのテーマが表現されているとのことだ。
小道を挟んですぐ隣にはフランス式の庭園がある。
フランス庭園に欠かせないバラのアーチが植えられており、その形式はベルサイユ宮殿のように完璧な左右対称形だ。
フランスの庭園がシンメトリーな美だとしたら、日本庭園は細部の美。
敷地内にはこうしてタイプの違う庭園があるのだが、不思議と違和感はなく、むしろ一つの形として調和しているように思われた。
それぞれの文化を尊重しながら、統一感のあるブローニュの庭園は、平和を強く願ったカーン氏の理想郷であったと言える。
そして今、アルベール・カーン美術館の予約は非常に取ることが難しい。
土日は完全に埋まっており、平日も近隣住民と思われる人々で賑わっていた。
フランスで日本文化というと和食やアニメ・漫画のイメージが強いが、日本庭園の人気がここまで高いことには正直驚いた。
確かに、和食が得意でないというフランス人はいても、庭園はほぼすべての人に愛されている。
主のアルベール・カーンは世界恐慌で破産し、自宅の所有権を失ってしまったが、その後にオード・セーヌ県が敷地を丸ごと買い取った。
こうして、パリやパリ近郊にはたくさんの邸宅美術館が存在する。
故人が築いた財産や文化を、自治体が残そうとする姿勢もフランスらしくてまた良い。
今回のリニューアルをきっかけに、日本庭園ファンがまた増えそうだ。(せ)