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パリ最新情報「仏社会に広がる移民問題の波紋。フランス、“不法移民との結婚禁止”へ動く」 Posted on 2025/02/22 Design Stories  

 
2月20日、フランス上院は「不法移民との結婚を禁止する」ことを目的とした法案を可決した。この法案には、不法移民が結婚を通じて合法的に滞在許可証、およびフランス国籍を取得することを防ぐ狙いがあるという。法案は227票対110票で可決されたものの、今後は下院でも審議される予定で、最終的な成立にはさらなる議論が必要だと言われている。
 

パリ最新情報「仏社会に広がる移民問題の波紋。フランス、“不法移民との結婚禁止”へ動く」



 
フランスにおける不法移民の強制送還件数は、増加の一途をたどっている。2003年には年間2万件だったが、2023年には13万件にまで増加した。それに伴い、不法移民との結婚、いわゆる「偽装結婚」も、フランスでは深刻な社会問題として取り上げられている。

たとえば法案可決の数日前には、フランス南部の街ベジエ市で、市長がフランス人女性と不法滞在者であるアルジェリア人男性との結婚を認めなかったとして、検察当局に招集されるという事態が発生した。
フランスでは日本と異なり、結婚は役所で執り行われ、市長立ち合いの下で必要書類にサインをしなければならない。しかし、ベジエ市長はこの男性に犯罪歴があり、すでにフランス国外への退去命令が出されていることを指摘。偽装結婚の疑いがあるとして、2人の結婚を認めなかったのだ。
この決定を受け、女性は「欧州人権条約に違反している」としてベジエ市長を提訴。男性はアルジェリアへ強制退去となったが、市長は今後、失職処分を受ける可能性があると報じられている。
 



パリ最新情報「仏社会に広がる移民問題の波紋。フランス、“不法移民との結婚禁止”へ動く」

 
現在のフランスでは、こうした問題が後を絶たない。偽装結婚を認めなかった自治体のトップが、逆に提訴されるというケースが少なくない頻度で発生している。
今回可決された法案には、こうした市長らを保護する狙いもあるという。そしてこれはまさに、移民政策の厳格化を求める現在のフランス世論を色濃く反映したものだと言えるかもしれない。実際に、フランス国民の75%が「人権の保護よりも不法滞在者との結婚を禁止することを望む」とする調査結果も出ている。(フランス民営ラジオEurope1 調べ)
 



 
とはいえ、フランスの左派議員からは「この法案は外国人嫌悪や人種差別につながる」との批判が上がっている。また一部からは、「不法滞在が結婚の障害となってはならない」と判断した2003年の憲法評議会に反する、という指摘もあった。
近年、フランスは移民政策を強化する方向へと舵を切っているが、とくに2020年代に入ってからは右派の影響力が増し、左派との対立が激化している。ただ、国民の中には経済苦を理由に右傾化する層もいるため、不安定な財政状況がこうした社会の変化を後押ししていることは否めない。

フランスの首相が交代してから約2カ月。昨年末に就任したバイル新首相は、移民問題について頻繁に言及している印象がある。一方、米国ではトランプ大統領の政策が引き続き大きな影響を及ぼしており、フランスがこれに対しどのような姿勢を示すのか、国民の関心が高まっている。(コ)
 

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