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パリ最新情報「パリ市、『馬のお巡りさん』を増員へ。馬の持つ抑止力・実務上のメリットを考えて」 Posted on 2022/11/10 Design Stories
フランスでは、街中をパトロールしたり、パレードの警備に当たっている騎馬警官を各地で目にすることがある。
騎馬警官は英国・ロンドンで有名だが、フランスがそれに習って設置したのは1922年のことだった。
ただ予算の都合で1937年に一旦廃止され、再び登場したのが1994年。
ということで、フランス国内での騎馬警官は比較的新しい部隊となっている。
パリ市における騎馬警官は現在、28人の騎手と16頭の馬で構成されているという。
ただこれは国家警察が担当しているものであるため(地方では国家憲兵隊)、パリは今後、市が管轄する自治体警察にも導入する意向であるとのことだ。
パリ市の自治体警察とは、国家警察とは違い主に軽犯罪(スクーターの歩道走行やタバコのポイ捨て、違法駐車)を取り締まる業務を担当している。
設置が2021年と新しい組織ではあるものの、麻薬取締やテロ組織の取締など、より重大な任務を遂行する国家警察の動きをスムーズにすると同時に、パリ市民にとって身近な「お巡りさん」として、その存在感を増しつつある。
そのためパリ市議会は10月、自治体警察に4頭の馬と8人の騎馬警官を新たに増員することを決めた。
今のところ数は少ないが、市議会は馬を使用したパトロールについて「メリットが非常に大きい」としている。
というのも、馬に乗った際の視界の高さが平均で2.5メートルと高く、バイクや徒歩のパトロールでは不可能な範囲まで見渡すことができるため。
こうして広い範囲を目で追えるので、馬は狭い場所での警備にも適しており、実務上のメリットがとても大きいとのことだ。
また、馬の威厳および雰囲気は軽犯罪の抑止力にも繋がっている。
実際に2018年の黄色いベスト運動では騎馬警官が活躍していて、警官が抑制しようとしても素直に言うことを聞かなかったデモ隊が、騎馬だとあっさり引き下がったという事例があった。
さらに警察と住民の仲介役としても、馬の役割は大きい。
馬は古くから人間にとって親しみやすく、雄大で安心感のある動物として認識されてきた。
そのためパリの街角では立ち止まって馬を撫でたり、背中に乗った警官と談笑する住民や観光客の姿も多く見られ、普段ではほとんど見ない良好なコミュニケーションが生まれている。
気になる糞の処理については、警官は小型のスコップを常に携帯しており、その都度糞を拾い集めているということで心配はない。
また昨今では各自治体との連携により、糞を回収し肥料として利用する試みもあるという。
なおこうした動きはパリだけでなく、ボルドーやブルターニュ地方でも活発化している。
馬は先のメリットの他にも、公害を出さない移動手段として住民の意見と合致した。
それによってボルドーでは2020年から、ブルターニュ地方の町ダムガンでは2022年7月から騎馬警官を増員している。
騎馬警官を導入する正当な理由としては、環境への影響、視界の良さ、犯罪の抑止力という3つの大きなポイントがあるとされる。
またある調査では、馬はイルカに次いで人間にヒーリング効果をもたらす動物でもあるとも発表されている。
訓練や馬舎の維持などでコスト面はかさんでしまうが、こうした利点を踏まえ、パリ市は「街角で見かける馬がもっと増え、人々がそのひづめの音に耳を傾ける日が来るようにしたい」とコメントしている。(る)