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パリ最新情報「速報が続く、悲劇の父の日に、音楽で愛を繋ぐ」 Posted on 2020/06/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子が起きてこないので外出し、日曜日に空いているカフェで朝食を食べている。カフェオレとクロワッサンとオレンジジュースという定番の朝食だ。一番、くつろげる朝の時間だが、携帯に目を落としたら、ここがこんなに穏やかなだというのに、世界各地が荒れていてびっくりした。速報が立て続けに3つ飛び込んできたのだ。一つはロンドン郊外で男が次々に人を刺し3人が死亡、2人が重症というもの。直前まで反人種差別デモが行われていた場所らしい。犯人は25歳の男の子だ。次の速報が今日ジョージ・フロイドさん事件のミネアポリスで銃撃があり12人死傷、もう一つがワシントン州シアトルでデモ隊が設置した「自治区」と呼ばれる場所で19歳の青年が射殺され、もう一人重症らしいが、この三つの事件、原因が人種差別デモと関連があるかは調査中ということだ。フランスのニュースチャンネルではこの三つの話題で持ち切りになっているが、ほんとうに父の日だというのに、なんてこった。
※記事を追加します。たった今入った情報によると、イギリスの警察はロンドン郊外の殺傷事件、容疑者の25歳青年はテロリストとして捜査を開始した模様。フランスアンフォより。

パリ最新情報「速報が続く、悲劇の父の日に、音楽で愛を繋ぐ」



コロナが根底の原因だな、と思った。この世界的なパンデミックが及ぼす精神的な毒性がじわじわと人間を分断させている。人と人が接触できないだけじゃなく、分断がはじまった。民族の分断、人種の分断、宗教の分断とこれからメンタルに不安を感じる人たちが、自分とは違う社会を拒否し、しかも、暴力によって、この世界を閉ざしていくのだろう。アメリカは銃社会なのでこの分断が銃によって加速するだろう。11月のアメリカ大統領選挙までにもっと恐ろしいことが起きる予感がする。ぼくらはコロナに罹らないようにしながらも、同時に、心を閉ざし過ぎないように警戒しないとならなくなった。



今日、実はフランスも「父の日」なのである。母の日は日本とフランスは違うのに、父の日だけは日仏一緒というのは何となくうれしい。そして、同時に、今日は「音楽祭」(Fête de la Musique)の日でもある。普段であれば、路地とか美術館とかあらゆる場所が音楽に解放されるのだけど、今年はコロナの影響で10人以上の集会が認められない。しかも、まだ「路上での演奏」が禁止されている。なので、テレビとかネット配信を中心とした「音楽祭」になるようだ。ギスギスした世界を癒すのに音楽が必要だ。よし、ぼくもギターを抱えて今日は窓をあけて歌うことにしよう。道を挟んだアパルトマンに住むアーティストのピエールに『一緒に日本の名曲「上を向いて歩こう』をやらないか?」とSMSで持ちかけてみた。返事はまだ、ないけど…。もし、やれたら、通りを挟んだちょっとした日仏コンサートになるね。ピエールも可愛い娘二人のお父さんだから、いい父の日のライブになるだろう。さ、家に帰ろう。息子を起こさないと。

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