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パリ最新情報「朗報か? フランス夏の大規模フェス、条件付きながら開催へ」 Posted on 2021/02/21 Design Stories
昨年10月30日に二度目のロックダウンを迎えて以来、それが解除された今も、映画館、劇場、美術館などの文化施設がフランスでは未だ閉鎖したままである。
フランス政府から援助金が出ているとはいえ、これではアーティストにとって職を失ったも同然。
さらにこの状態がいつまで続くのか、という不安も重なり、文化人からの反発が日に日に強くなっている。
そんななか、2月18日に文化大臣のロズリーヌ・バシュロ=ナルカン氏が、夏の野外フェスティバルの開催を、条件付きで許可することを発表した。
その条件とは、定員が最大5000人までであること、観客は着席のままソーシャル・ディスタンスを十分に守る、というもの。
もちろん、感染状況が現在より悪くならないという前提のもとだ。
夏のヨーロッパといえばフェスティバルは欠かせない。
フランスでは演劇畑で最大のアヴィニョン演劇祭、アルル国際写真フェスティバル、ラ・ロシェル国際映画祭のほか、パリのロック・オン・セーヌをはじめ各地で音楽祭もある。関係者にとって、こうした大きなイベントが昨年に続き開催できないとなれば、経済的な打撃は著しいだけに、今回の決定はとりあえず朗報と言えるだろう。
しかし、よく考えればこの決定はあまりに大雑把すぎて問題点が多い。
たとえば、アヴィニヨンの演劇祭は街をあげてのイベントであり、「オン」と「オフ」に分かれて、あちこちで様々なイベントが開催される。
それだけに、個々の会場自体は小さくても、街は人で溢れかえり、その数は優に5000人を超える。
その場合、果たして取り締まりをどうするのか。
また着席が条件な限り、観客が総立ちになるようなロックコンサートは実質無理なのではないかと思われる。
とくに欧米の観客は、日本のように行儀が良いとは限らないため、大きな会場で多数が総立ちになれば律するのは不可能だろう。
そうしたリスクを考えると、開催できるのはせいぜいクラシックやジャズあたりになるのではないか。
バシュロ=ナルカン大臣によれば、3月と4月に試験的に、パリとマルセイユの会場を使って、スタンディング・コンサートを開催する予定だという。
公演の前後にPCR検査をおこない、観客が自由に移動した場合の結果を審査し、対策を検討する予定とか。
さらに興行関係者とは夏に向けて定期的にミーティングの機会をもうけ、詳細について話し合うということだ。
もっとも、関係者にとっては夏の話よりもまず、文化施設がいつ再開できるのか、という方が重要であるのは違いない。
小規模な商業施設が再開しているなか(食料品店を除く2万平米以上の商業施設は閉鎖したまま)、文化施設はその大きさに拘らず再開が認められていないのは不公平だという声も聞く。
俳優のシャルル・ベルリングらが中心となり、演劇、映画関係者のなかでワクチンの普及と賛同を唱える署名も広がった。
確かに、小劇場や名画座はキャパが100名に満たないところもあるなかで、十把一絡げに禁止してしまうのはあまりにアバウトすぎると言えるだろう。
今回コロナ禍の政府の対応を見て思うことは、経済対策が優先されるなかで、文化セクターへの対応が後回しにされているということだ。
これは「文化的例外(exception culturelle)」という言葉が存在し、芸術を商業と分けて伝統的に重んじてきたフランスのような国にとっては、意外である。
この点において、マクロン大統領の姿勢を批判するとともに、以前は文化セクターとは無縁だったバシュロ=ナルカン大臣の、内閣における影響力自体を疑問視する見方もなくはない。
実際現内閣のなかで最高齢(73歳)である彼女が、平均年齢が51.5歳という若手内閣のなかでどれだけその“円熟”を発揮できるかも、注目されている。
いずれにしろ一筋縄では行かないコロナ対策への政府の取り組みは、今後も臨機応変に対応することが必要とされる。(久)