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パリ最新情報「新たなフェミニズムの波について、フランス女性が真剣に考えていること」 Posted on 2022/04/13 Design Stories
「家事を分担しないパートナーを、刑事処罰の対象に。」
仏経済学者でフェミニストのサンドリーヌ・ルソー氏は3月21日、メディア「Madmoizelle」のライブチャットでこう提案し、フランス国民をあっと驚かせた。
ルソー氏はまた、1週間のうち女性の家事・育児負担は男性より10時間30分も多いことも指摘。
カップル間での性暴力が罪になるように、「家事未分担罪」を設定すべきであると主張した。
しかし同氏の発言は瞬く間に炎上。
ソーシャルメディア上では彼女に対する激しい非難が巻き起こり、デバ(議論)好きなフランス人に火をつけてしまったのだ。
「奇想天外」「ゴミ出しをしない夫をいちいち警察に突き出さないといけないのか」「洗車や芝刈りを妻にお願いできない」
と、この話題を取り上げた各通信社には多くの反対意見が寄せられており、3週間経った今でも尾を引いている。
フランスでは、20歳から59歳までのおよそ9割の女性が、男性と同じように働いている。
「女性が輝ける国」とのイメージが強いフランスだが、家事分担に苦しむ女性は実際のところ多い。
それが浮き彫りになったのがやはりコロナ禍で、テレワークの浸透により女性は「母でも妻でもない私」を失ってしまったと言われている。
子供には個室が、夫には書斎があるのに、自分はダイニングテーブルやリビングで仕事をしている。
そしてオンライン授業を受ける子どもの宿題を手伝い、男性には見えていない家事をこなさなければならない。
つまり絶えず家族のケアをしなければならず、それによって女性のキャリアが伸びにくいとされているのだ。
こういった背景があるのか、フランス女性の2人にひとりは「家事未分担罪」に賛成である、というこれまた驚きの結果が出た。(仏調査会社Ifop調べ)
これは、ルソー氏の爆弾発言の後日に実施された世論調査の結果によるもの。
実際に刑事告訴するかどうかは別としても、現実問題として受け止めている女性が少なくないという。
しかし、男性側の44%が賛成との結果も出ている。
違いは、女性が家事分担問題をリアルに考えているのに対して、男性は「男女平等」をより社会的な問題として捉えているところにある。
30代以下の若い世代になればなるほど、こうした平等意識が強いことも分かった。
ただ、世代によっては明らかに意識が異なるというのも事実である。
そもそもフェミニズムという言葉自体が古いのではないかと考えているのが、今の10代後半~20代前半の世代だ。
彼らのあいだでは、LGBTQIA+(Iは生まれつき男女両方の身体的特徴を持つインターセックス、Aは誰に対しても恋愛感情を抱かないアセクシャル、プラスはまだ定義されていないそれ以外の人々)なる言葉も生まれ、性差の壁をごく自然に取り除いている。
対して、40代以上の世代は従来の考え方のままだ。
メディアは未だにヘテロセクシャルで、子供を持ちながらも仕事をバリバリこなすパーフェクトな女性にスポットが当てられている。
LGBTQIA+を取り上げるにしてもそれが話題のネタであることに変わりはなく、むしろ記号でカテゴライズすること自体が差別的だという若者の意見もある。
多様化が進むパリにおいては、そういった諸々の壁をなくしていこう、という新たなフェミニズムの波も発生している。
男女平等をうたったデモではなく、性差そのものを疑問視するデモへ。
以前あったフェミニズム専門の書店は少なくなり、LGBTの権利に敵対的だったエリック・ゼムール氏も先日の大統領選挙で敗れ去った。
今回、ルソー氏の「家事未分担罪」発言はフランスでかなりの論争を巻き起こしたが、そう遠くない将来、フェミニズムという言葉自体が消える日がやってくるのかもしれない。(大)