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パリ最新情報「2024年欧州議会選挙:空前の投票率、極右の躍進…何が人々を選挙に向かわせたか」 Posted on 2024/06/11 Design Stories  

 
EU加盟国、27か国で行われた欧州議会選挙は9日夜、すべての開票を終え結果が報告された。
今回はEUの政策を左右する重要な選挙だけに、フランスの有権者からも高い関心が寄せられていた。
しかしフランスではマクロン大統領率いる与党連合が、ジョルダン・バルデラ氏を党首とする極右政党「国民連合(以下RN)」に惨敗。※ 日本では極右政党と呼ばれているが、実際は日本で騒がれる極右とは微妙に異なる。
得票率は与党連合の約2倍となり、同日夜にはマクロン大統領が下院の解散・総選挙を発表する事態になった。
なお今回は、首都パリでは21世紀としては空前の投票率を記録している(59.67%)。フランス全体では有権者の52.5%が投票に訪れており、これも欧州議会選挙では1994年以来最高の投票率であったという。
 

パリ最新情報「2024年欧州議会選挙:空前の投票率、極右の躍進…何が人々を選挙に向かわせたか」



 
これほどまでに高い投票率は、「欧州問題への関心が高まったことの表れ」と言って間違いない。しかし、フランスでは何がそうさせているのか。極右政党がこれほどまでに躍進した理由には何があるのだろうか。

「フランスの有権者は、欧州議会が具体的かつ、非常に重要な役割を担っていることをよく理解した。パンデミックの時も、ロシア・ウクライナ問題の時も、彼らはずっとそれを見ていたのだ」
こう語るのは、フランス世論研究所「IFOP」のフレデリック・ダビ事務局長だ。
ダビ事務局長によれば、「IFOPの調査をもとに考えると、今回の欧州議会選挙はマクロン大統領の5年間の任期中で行われる唯一の選挙であり、現政府への不満を表明したい人が、異議を唱えるために投票を利用した」のだという。

こうしてフランスの有権者は“極右政党”RNに圧勝をもたらし、自国のリーダーに大打撃を与えた。
蓋を開けてみれば、生活の困窮や移民問題など、フランスは重めの社会問題を何年も何十年も抱えていた。これに加えてEUはウクライナへの支援をはじめ、気候変動政策でも大胆な法案を次々と可決している。
よって、フランス国民の不満はほぼ「限界」に達していたようだ。今年1月に起こった農家のデモに見られるように、EUおよびマクロン政権に対する異論はここ1〜2年でその激しさを増していた。
 



パリ最新情報「2024年欧州議会選挙:空前の投票率、極右の躍進…何が人々を選挙に向かわせたか」

 
一方で今回躍進した極右政党RNは、移民排斥やEUの厳しい環境規制の見直しなど、あらゆるテーマでマクロン政権と対立してきた。22年からはマリーヌ・ルペン氏に代わって28歳のジョルダン・バルデラ氏が党首となり、さまざまな世代から支持を集めている。
つまり「生活に疲れ、辟易としている」フランス人にとっては、極右政党RNへの投票が「最後の賭け」だったという。
過去には極右と揶揄され敬遠された政党だったが、変化・変革を強く期待するフランス人はこのたび、“普通の選択肢”として彼らを選んだのだ。

しかし、極右や右派が躍進したのはフランスだけではなかった。

ドイツでは右派が議席を8から16に倍増し、ハンガリーやイタリア、オーストリアでも右派が第一党を取った。現にハンガリー・イタリア・スロバキアではすでに右派ナショナリストの首相が誕生している。
こうした右派勢力は今回の選挙で、720あるEU議席のうち約4分の1を獲得した。EU全体が右傾化していることを裏付けたかたちだ。
 



パリ最新情報「2024年欧州議会選挙:空前の投票率、極右の躍進…何が人々を選挙に向かわせたか」

 
今回は極右政党RNに投票した若年層も少なくなかったという。ただ成年層に比べれば、若年層は左派を支持する傾向があると言われている。
そのためか、結果が報告された9日夜にはパリのレピュブリック広場で大規模なデモが発生。極右政党の勝利に異論を唱えるため、数百人の若者が集まった。
また一夜明けた10日にはパリのアンリ4世高校で、学生らが校門を塞ぐという抗議活動が行われた。こうして欧州議会選挙は、選挙権をまだ持たない高校生からも高い注目を集めていることが分かった。
 

パリ最新情報「2024年欧州議会選挙:空前の投票率、極右の躍進…何が人々を選挙に向かわせたか」

https://x.com/le_parisien/status/1799923760079728670?s=12
※9日夜、パリのレピュブリック広場に集まる若者たち。彼らは極右政党RNに反対する。
Le Parisien official Xより



 
日々の暮らしが苦しい、将来に希望を見出せないという意見は世代間で一致するが、誰を選ぶか、どの政党を選ぶかは世代によって少し異なる。勢力を伸ばした極右政党が今後のEU政策に、どれだけ影響を与えられるのかも不透明だ。
そして何よりも、下院の解散がマクロン大統領からサプライズで発表されたことで、フランス国民は6月30日と7月7日に再び投票に行かなければならなくなった。

フランスで下院が解散され総選挙が実施されるのは、1997年以来27年ぶりとなる。
その結果次第でRNが第ー党を取るとなれば、マクロン大統領は極右政党から新首相を選ばなくてはならない。大統領と首相の所属政党が別々というのは以前にもあったが、これが極右政党からとなると、フランス初の出来事になる。
パリ五輪を目前にした決選投票で、フランスの政局は一体どうなるのだろうか。こちらでは引き続き高い投票率が予想されている。(大)
 

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