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パリ最新情報「ディプティックのインテリアと京都の香り」 Posted on 2021/09/28 Design Stories  

日本でも人気の香水メゾン、ディプティックは今年2021年で創業60周年を迎えた。
香りの良さもさることながら、ディプティックの世界観やディスプレイが好き、という方も多いのではないだろうか。

もともとはインテリア雑貨を扱うブランドだったというだけあって、ブティックの内装はいつ見ても洗練されていて気持ちが良い。
そんなディプティックが60周年の節目に「原点回帰」を図るべく、9月10日よりホームデコレーションの販売をスタートさせた。

パリ最新情報「ディプティックのインテリアと京都の香り」



フランス語で「2枚折りの絵屏風」を意味するディプティックは、1961年にアーティスト3人組によって立ち上げられた。
それぞれ演劇、建築、絵画の分野で秀でた才能を持つアーティストだったという彼らは、世界中を旅し、現地で魅力的な雑貨を仕入れていた。

パリ5区、サン・ジェルマン大通り34番地で幕を開けたディプティックは、次第にセンスの良さで知られるようになり、1963年には香り付きのフレグランス・キャンドルを発売。

パリ最新情報「ディプティックのインテリアと京都の香り」



その後、キャンドルのヒットを受けディプティックは怒涛の快進撃を見せる。
ブランドのアイコン的存在であるこのキャンドルは、現在では50種類ほどのバリエーションがあり、パリジェンヌのアパルトマンでも見かける確率がいちばん高い。

こうしてディプティックは、メゾンをスタートさせて以来、“生活の芸術”をキーワードに、香りだけでなく生活を彩るさまざまなピースを展開してきた。

パリ最新情報「ディプティックのインテリアと京都の香り」



そして今年9月に発表されたのは、メゾン初となるホームデコレーション。
キャンドルアクセサリーやソープディッシュなどがラインナップし、テーブルアイテムからはコースター、プレート、タンブラーなどが展開される。
フランスでは60周年を記念して、老舗陶器ブランドGien(ジアン)とコラボした限定プレートも登場した。

パリ最新情報「ディプティックのインテリアと京都の香り」

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さらに、“アートと世界の旅”をテーマにした香りのコレクション「ル・グラン・トゥール(Le Grand Tour)」も数量限定で発売となった。
これは、創業者3人がインスピレーションを受けた世界の5都市を取り上げたもので、パリ、ヴェネツィア、ミリエス(ギリシャ)、ビブロス(レバノン)、そして日本の京都をそれぞれイメージしたという。アイテムにはキャンドル、オードトワレ、香りのオーバル(装飾品)が顔をそろえる。

なお、これらの作品は「ル・グラン・トゥール」のコンセプトに基づき、2021年9月にパリからスタートして世界5都市を巡回。日本では、東京・神宮前のジャイルにて10月10日まで期間限定ショップがオープンしていて、いずれのアイテムも購入可能とのことだ。

しかし、ディプティックの創業者3人が京都に憧れを抱いていたというのは大変興味深い話である。フランス人の多くが日本文化に好意的であるが、とりわけ京都に対するリスペクトは高い。日本人にとっても特別な、古都京都を香りで表現したというのだから、これはますます見逃せない。

「ル・グラン・トゥール」の5都市のなかでも京都はパリから一番遠く、創業者たちは訪問を夢にまで見たものの、実現しなかったという。
そこで、3人に代わって京都の香りを調香したのが、今もっとも勢いのあるフランス人の女性調香師、アレクサンドラ・カーリンである。
彼女は今年の5月にもメゾン・マルジェラから「マッチャ・メディテーション」という日本の香りを発表しているので、おそらくかなりの日本通であることがうかがえる。

パリ最新情報「ディプティックのインテリアと京都の香り」



今秋に数量限定で発売となったオードトワレ「KYOTO」は、フレグランス業界初の「生け花」をコンセプトにしている。これは、京都が生け花の発祥地であること、カーリン氏が生け花の哲学に感銘を受けたことに由来しているそうだ。

そして、「KYOTO」は3つの香料が軸となっている。
生け花における“天・地・人”の概念を、“天=インセンス(お香)、地=ベチバー、人=ローズ”に置き換え、表現したものだ。

まず印象的なのは、一吹きした瞬間に香る、植物のパワフルさ。
脳内でパソコンが再起動したような感覚になり、目が覚める。
天と地のあいだに「生かされている」人間が、いかに調和をとって日々暮らしていくか。
「KYOTO」のトップノートからは、そんな緊張感を覚えた。

枯山水のようなベチバーも、慎しみ深いローズも、肌の上から心の内へと浸透するように静かに香っていく。「世界の観光地」としてのKYOTOではなく、私たちが大事に思う古都京都のイメージがしっかりと再現されていて、なんだか嬉しくなった。

そんな生け花の美学を香りに昇華した「KYOTO」は、今まであった日本テーマのフレグランスのなかでは、最も私たちが納得できる香りかもしれない。
ボトルカラーも日本の和色を思わせるバーガンディーで、どんなインテリアにも馴染みそうだ。

こうして雑貨店から始まったディプティックは、2021年を「創造性がとどまることなく湧きだす生命の泉」と例え、たくさんのコレクションとイベントを企画している。

コロナ禍にあっても「次」を見据えてモーターを回し続けるパリ。
ディプティックのように、昔からあるものを「いちばん旬」に変身させる才能が、この街にはある。まだ少しの警戒は感じるものの、規制が解かれるにつれ、ブランドたちはもっと勢いを増していくことだろう。
そんなパリのビッグメゾンから、これからも目が離せない。(聖)



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