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欧州最新情報「デンマークに日常をもたらしたe-Boksとは」 Posted on 2021/10/08 Design Stories
コペンハーゲンの中心地、バーや、ナイトクラブが並ぶ繁華街は、若者たちで賑わい、すっかり日常を取り戻している。
先月9月10日より欧州でどこよりもはやく、新型コロナウィルス感染症に関する制限措置を撤廃した国、デンマーク。
マスクも、衛生パスポートも求められない、コロナ以前のような日常風景だ。
制限解除からひと月が経とうとしているが、1日あたりの感染者は500人以下という低水準を保っている。
驚くべきことは、ワクチンを2回接種し衛生パスポートを所持していれば、海外からの旅行者への隔離期間すらないことだ。
空港の一部の区画ではマスクの着用は義務付けられており、衛生パスポートが無い場合は、その場で検査受検が可能だ。
街を歩くと、フランス語やスペイン語などが聞こえてきて、外国人が訪れ始めていることを実感する。
規制解除の決め手は、12歳以上のワクチン接種率が80%を超えたことが大きいが、更にその秘密に迫りたい。
デンマークの首都コペンハーゲンは、英エコノミスト誌調査部門の「安全都市指数(SCI)」第1位に選ばれた。
今年から新たに加わった環境安全の項目が、高スコアに寄与したことが大きい。
英エコノミスト誌の取材に対し、コペンハーゲンのラーシュ・ヴァイス市長は、その理由を「犯罪率の低さはもちろんのこと、社会的結束の強さと所得格差が少ないこと」と語っていた。
確かに通りすがりの人に、ちょっとした質問をしても、とても親切丁寧に対応してくれることが多い印象。
コペンハーゲンの蚤の市で出会ったおじさんに、新型コロナウィルス感染症において、デンマークが他国と明暗を分けたポイントは何かを聞くと、即座に「e-Boks」と携帯電話を取り出して見せてくれた。
デンマークは、隔年で発表される電子政府ランキングで、2018年、2020年と1位を獲得。
2001年に創立されたe-Boks社の、政府と国民を繋ぐ「e-Boks」というアプリは、公共料金の支払いから保育園の連絡まで、日常生活のありとあらゆるものの情報が届く。
その効果として、ITによる効率化と、ペーパーレス化による環境への配慮、郵便経費削減と、それに伴うCO2排出量の低減が挙げられる。
2018年に「e-Boks」は、信頼できるデンマークブランドトップ100に選ばれているあたり、国民からの支持も伺える。
なぜ、このようなことが可能なのかと言えば、1968年にセントラルパーソナルレジスター(CPR)という社会保障番号が制定され、それが上手く活用されているからだ。
デンマーク人は生まれると同時に付与されるが、長期滞在を許可された外国人も取得する必要があり、デンマークに住む人全ての義務なのだ。
前出の蚤の市のおじさんに、スマートフォンを持っていないお年寄りでも、「e-Boks」は扱えるのかと聞いてみた。
「できない人には必ず助けてくれる人がいるから大丈夫だよ」と、とてもシンプルな回答にハッとさせられた。コペンハーゲン市長が誇る、社会的結束の強さとは、こういった助け合いの意識かもしれない。
安全都市指数世界1位で、電子政府ランキング1位を誇る背景には、アナログな人と人との繋がりが、デジタルでは補えない部分を埋めているような気がした。
(ウ)