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パリ最新情報「パリ最古の衣料品店。177年続く法廷ローブは今も手作りで」 Posted on 2022/07/30 Design Stories  

 
「この店の歴史は、フランスの正義の歴史とつながっている」
こう語るのは、パリで最も古い衣料品店「Maison Bosc(メゾン・ボスク)」の店主、オリヴィエ・デ・ムーティ氏だ。
パリはモードの都と呼ばれて久しい。
パリ発祥のブランドの中で一番歴史が古いのは、エルメス、次いでルイ・ヴィトンとなる。
しかし現存する「ブティック」として最古のものは、ハイブランドでも何でもなく、法廷衣装を専門に扱うこのメゾン・ボスクであった。
 

パリ最新情報「パリ最古の衣料品店。177年続く法廷ローブは今も手作りで」



 
法廷衣装(ローブ)は、フランスの裁判官や弁護士が今も現役で着用している。
これは中世の時代から続いており、フランスでは最も格調高い衣装なのだそうだ。
非常にニッチな分野ではあるが、メゾン・ボスクはなんと1845年からずっと同じ場所に店舗を構え、なおかつ177年前と変わらず店の中で縫製を行っているという。
通常ならほとんど知ることのないフランス法廷衣装の実態。
パリ最古の衣料品店という事実を含め、その姿が仏紙Le Parisienによって7月19日に明らかにされた。
 

パリ最新情報「パリ最古の衣料品店。177年続く法廷ローブは今も手作りで」

 
メゾン・ボスクの場所はパリの中心地、ノートルダム大聖堂が鎮座するシテ島にある。
斜め向かいにはパレ・ド・ジュスティス(日本の最高裁判所にあたるフランス法曹界の最高峰)があり、ロケーションとしては理想的と言えるだろう。
 

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※シテ島の3分の1の面積を占めるパレ・ド・ジュスティス

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店主のムーティ氏は、代々続くオーナーというわけではなかった。
以前は日本企業である日立のパリ支部で働いており、一時は支社長まで上りつめたそうだ。
ところが中小企業の再建に興味を持っていた氏は大企業を退職し、15年前にメゾン・ボスクを買い取る。
その後は奥様と一緒に事業を引き継ぎ、今でも毎日のように店頭に立ち続けている。

「妖精の指」と呼ばれるお針子さんは3人。
店の中二階にはアトリエがあり、彼女たちは177年前と変わらないスタイルで法廷衣装を作っている。
 

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主な客層は、弁護士、裁判官など法に携わる人々のほか、ローブを着用する法学生や卒業生たちである。
ただフランスには卒業式というイベントがないため、英国や米国の大学に留学している学生か、法学生の実技講習などでローブが必要になるという。

なおフランスの司法試験を突破するのは日本と同様、大変な狭き門となっている。
長いあいだ血の滲むような勉強をしてきた彼らの初法廷衣装を、涙ぐみながら注文しに来るのはその親であることが多い、とのことだ。
 

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「弁護士には一着目に誓い、二着目に富み、三着目に死ぬ」という言葉がある、とムーティ氏は語ってくれた。
ローブの相場は1,100〜3,000ユーロ(約15万4千円〜42万円)。
もともとの作りが良いため、一人の弁護士が買い替える頻度はそう高くない。
そのためメゾン・ボスクではオーダーメイドのほか、お直しでやってくる法律関係者も多いそうだ。
店舗の奥にはムーティ氏のデスクとソファがあり、弁護士や裁判官は溜まったストレスをここで癒やしていくこともあるという。
 

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そんなメゾン・ボスクのトレードマークは、司法・裁判の公正さを表すシンボル「天秤」だ。
店のそこかしこにノスタルジックな天秤が置かれてあり、オリジナルのマグカップやペン立てにも天秤のマークが。法廷衣装は必要なくとも、パリ最古の衣料品店のアイテムを購入できるのは少し嬉しい。
 

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なお生地はカシミヤを除くすべてがフランス産であるといい、「店を継続することは、リヨンのシルク工房などフランスの伝統工芸を維持することでもあります」とムーティ氏は言う。
またローブの襟帯には最も高級な素材が使われており、色によって格や職業が分かれるとのことだ。
ちなみにフランスでは紫は判事、黒は弁護士、黄色と紫のミックスは学識者を示している。
 

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ムーティ氏によれば、幸いなことにコロナの影響はさほど受けなかったそうだ。
彼のオーダーブックは現在満杯に近い状態で、以前より学生(とその親)の顧客が増えてきているとのこと。
こうして177年続く店が元気でいるのも、パリがモードの都と呼ばれる理由なのかもしれない。(せ)
 

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